CROSS(7)

創作の怖い話 File.224



投稿者 でび一星人 様





「ほ・・ほほう・・・。

な、なるほどな・・・。


姉ちゃん、ビックリなんてしてへんからな!」



「・・・相変わらずだね・・・姉ちゃん・・・


・・・あ、ここだ・・・。」




キキーーッ


鎌司は車を停めた。



ガチャッ



ドアを開けて外に出ると、鉄で出来た要塞みたいな建物が建っていた。

大きさは、そこまで大きくは無いが・・・。




「・・・ここが、モヤシ君と僕の【研究所】なんだ・・・。」


鎌司はそう言うと、鉄のトビラの横にある小さなレンズみたいな所に指を置いた。


「・・・指紋照合システムなんだ・・・。」


ウイーン・・・。


トビラが開いた。



「・・・さ、入って・・・。」



鎌司に促され、ウチは一緒に【研究所】の中へと入っていった。

階段を下り、鎌司がドアを開ける。


部屋には数台のパソコンが置いてあり、書類のような紙が山積みになっていた。


「・・・ここが、事務所だよ・・・。

設計図や、試験結果が記録されてある・・・。」



「ほぉ〜〜。


・・・で、一体モヤシと鎌司は何を研究してんねん?」


「・・・うん・・・。

姉ちゃんに言うのもなんか変な話だけど・・・

【姉ちゃんを助ける為の研究】・・・なんだ・・・。」


「・・は?

ウチを助ける為の?」


「・・・うん・・・。」



「どういう意味や・・・。」



「・・・これを見て・・・。」


鎌司は、なにやら設計図みたいなでっかい紙を広げた。


「こ・・・この設計図は・・・



・・・



・・・




・・・一体何やねん・・・。


ウチこんなん見てもまったくわからんで。」

「・・・うん・・・。


これはね・・・




【タイムマシン】の設計図なんだ・・・。」




「タ・・・タイムマシーン!?」



「・・・うん・・・。

モヤシ君は・・・あの日姉ちゃんを失ってから・・・


キッパリと辞めてしまったんだ・・・

医者への道を・・・。」



「ちょ・・・ちょっと待てや!

・・・あんな、

ウチの記憶ではな、

モヤシは、パーフェクトにウチの手術をこなして助けてくれたんやけどな・・・。」



「・・・うん・・・。

モヤシ君の手術は完璧だったよ・・・。」


「そこや。

じゃぁ、なんでウチ死んでんな。」


「・・・手術の後・・・

モヤシ君は看護師に指示を出したんだ・・・。

『鍋衣さんが落ち着いたら、大好物のココアでも与えてあげて下さい』って・・・。」



「ふむふむ・・・。

たしかにウチ、ココア好きやけども。」



「・・・うん・・・。

・・・ところが・・・

その看護師は、ココアを姉ちゃんに、



点滴したんだ・・・。」

「はぁ?


ココアを点滴やと!?」



「・・・姉ちゃんでも、それが常識じゃ無い事は理解できるよね・・・?」




「ちょっと待て。 『姉ちゃんでも』って何やねん、『でも』って。」



「・・・姉ちゃんは・・・それが原因で死んだ・・・。

対局中、気になって病院に駆けつけた時には・・・既に姉ちゃんは・・・。」


(そういえば・・・


ウチに点滴しようとした看護師が、


交通事故に遭った鎌司が運ばれてきたと聞いて、慌てて点滴落っことしてぶまけた事あったような・・・。


茶色い点滴を・・・)



「鎌司、

ちょ・・・ちょっと待てや・・・。

やっぱりな、

なんかフに落ちんわ。


やっぱり、どう考えても、ウチの記憶では、

25歳のあの時死んだんは、

鎌司、お前やねん。


夢やあれへん。

絶対にお前や。」



「・・・姉ちゃん・・・。

僕は、生きてるよ・・・。

死んだのは姉ちゃんだ・・・。」


「いや・・・

お前、ホンマに鎌司か?

何や、ソックリさん使ってドッキリカメラでもしてるんとちゃうんか?」


「・・・本当に僕だよ・・・。

なんで姉ちゃんが居るのか、意味がわからないくらいだよ・・・。」

「じゃあ、ウチと鎌司しか知らへん質問するで?

ええか?」



「・・・なるほど・・・。

それなら、こっちも姉ちゃんが本物だと判断できるね・・・。」


「お・・お前も疑いはじめたか・・・。

よっしゃ。


じゃぁ第一問。


小六の時、ウチらを追っかけてきた顔面エグレは何に乗ってた?」


「・・・車椅子・・・。」


「那覇村のつるっぱげの家の前で座り込みをしてた鎌司に、オトンはどこの店で買った毛布をかぶせてくれた?」


「・・・ドン〇ホーテ・・・。」


「ウチが殴られて弱い唯一の弱点は?」


「・・・首筋・・・。」





「鎌司ぃ〜〜〜〜!」


ウチは鎌司に抱きついた。


「・・・痛いよ姉ちゃん・・・。」



「オマエはホンモノやぁ!

顔エグレの事知ってる時点でうすうすわかったけどぉ!」



「・・・あれは普通じゃ経験できないからね・・・。


・・とりあえず、離れよう姉ちゃん・・・。

話が進まないから・・・。」



「あ、そうやな。

ごめりんこ(S木Jジ)」


ウチは鎌司の体から剥がれた。


鎌司は、モヤシのその後を話しはじめる・・・。

「・・・モヤシ君は・・・ね。

皆から、止められたんだ。


『悪いのは君じゃない、看護師だよ』・・・って・・・。

でも・・ね、

モヤシ君は、『自分の指示が悪かった』って言って、

全責任を自分で抱え込んでしまったんだ・・・。


周りから期待されていた【天才研修医】は、

その日、メスを置いた・・・。


・・・モヤシ君はね・・・。

ずっと、姉ちゃんの事が好きだったんだよ・・・。


姉ちゃんの事が好きで、

姉ちゃんを喜ばせるように、

ずっとずっと、

中学高校と、

姉ちゃんの側にいて、

姉ちゃんを支え続けてたんだよ・・・。



でも、その想いを誰にも打ち明けなかった・・・。

姉ちゃんが死んでから・・・

僕にだけ・・・話してくれたんだ・・・。


・・・だからこそ・・・

姉ちゃんを結果的に救う事ができずに・・・

失ってしまった事に・・・


物凄いショックを受けたんだと思う・・・。

モヤシ君は、研修医を辞めて、医者への道を完全に断ち切った・・・。

【医学では、無くした命までは取り戻せない】・・・との結論を自分で出して・・・。


モヤシ君は、既に失ってしまった姉ちゃんの命を取り戻す方法を考えたんだ・・・。

その日の内に、

大量の本を買い漁ったんだ・・・。


【時間】に関するものや、【宇宙】に関する書物を・・・。



モヤシ君は、姉ちゃんが死んだ日までさかのぼり、

姉ちゃんが死なないよう、助けようと考えたんだ・・・。


半年間・・・モヤシ君は家に篭り、本を読み漁った・・・。


そしてある日、モヤシ君の頭の中で結論が出た・・・。


【タイムマシン】は、作れる・・・と。



ただ、それには理論だけで無く、技術がいる・・・。


モヤシ君は、鉄筋工のアルバイトを始めた・・・。


ほぼ、不眠不休で働き、

モヤシ君は沢山の資格を手に入れた。


溶接、クレーン、玉かけ、グラインダー、フォークリフト、英検4級・・・。


技術とほんの少しの稼ぎを手に入れ、

モヤシ君はいよいよタイムマシーンの製作を実行に移そうとした・・・。




・・・でも・・・モヤシ君には、そこまでの蓄えが無かった・・・。


ある日、モヤシ君は僕に土下座して頼みに来たんだ・・・。


『金を貸してください!

お願いします!』


・・・ってね・・・。


その時に、モヤシ君は全て話してくれたよ・・・。


・・・僕は・・・正直・・・


姉ちゃんを失った事は、心に深く刻まれているけど、

諦めがついていたんだ・・・。

【失ってしまった命はもう戻らない】・・・っていうね・・・。


・・・でも、モヤシ君は違った・・・。

その命を、取り戻そうと考え、そして努力したんだ・・・。

なんだか、僕はそんなモヤシ君を見ていると、自分が情けなくなってね・・・。

「・・・お金は貸せないが、出資ならできる・・・。」って言って、

この研究所を作ったんだ・・・。


・・・もちろん、

最初に用立て出来たお金は数千万しかなかったから、

ここまで増築していない、小さな研究所だったよ・・・。




でも・・・ね、


モヤシ君が色々と研究している最中に、色んな副産物が発明されたんだよ・・・。


本当に凄いよ・・・モヤシ君は・・・。



大きさ5mm×5mmのiポット

半径10キロの地震を消す機械

AVのモザイクを完璧に消す機械・・・。



その他にも、副産物は30種類以上・・・。


特許をとったり、高額で企業に売りつけたりして、

手元には100億近い金が舞い込んだ・・・。


その資金で・・・モヤシ君は日夜タイムマシーン開発に勤しんでいるんだよ・・・。」




「ほ・・ほぉ・・・


長い話やな・・・


7割は右から左や・・・。

でも、安心せい。


要点はおさえたさかいにな!」



「・・・。」



「とりあえず、モヤシは死んだウチを救う為に、タイムマシーンを開発したっちゅーワケか!

なるほどな・・・


・・・で、出来たんか?そのタイムマシーンは。」



「・・・それなんだけど・・・


昨日・・・やっと完成したんだ・・・。


名づけて【タイモヤシン1号】って名前なんだけどね・・・。」



「・・・ネーミングセンス0やな・・・。」



→CROSS(8)へ



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話5]