CROSS(2)

創作の怖い話 File.219



投稿者 でび一星人 様





ある日、モヤシがウチに対してキレた。



「鍋衣さん・・・パチンコ・・辞めなよ・・・。

僕とパチンコ、どっちが大事なの?」



ウチは、モヤシがウチのやる事にケチをつけた事が許せなかったんだろう。


「しょうもない理屈言うな! 別問題やろが!」

と言い返した。



今思えば、モヤシは少し震えていたように思う。



「パチンコやめないなら・・・僕は鍋衣さんと別れる・・・。」




強がりだと思った。



絶対に、モヤシはウチから離れて行くはずが無いと思っていた。



「勝手にしろ!」



ウチは、その日もパチンコに行った。


その日は不思議とよく出た。




ウチは、モヤシに謝る意味もこめて、


モヤシが欲しがっていた【ミニカーセット】を景品として貰い、家に帰った。



家に帰ると、オトンとオカンがウチを呼んだ。



「・・・鍋衣・・・


モヤシ君、持ち物全部持って帰っちゃったよ。


・・・ケンカしたのか?」



ウチはすぐモヤシに電話した。



・・・でも、すでに番号は使われておりません状態だった・・・。



ウチはミニカーセットを握り、モヤシの家に向かった。




モヤシの家に行くと、モヤシのオカンが出てきた。

モヤシはこの日から1週間、仕事の都合で外国に行くとの事だった。



そしてモヤシのオカンは、元々ウチの事を良く思っていなかった為、


「やっと、アナタみたいな不良娘から離れてくれて、せいせいしてるわ。」


と、言われた。



ウチは、モヤシが帰ってきたら手渡してくれるよう、ミニカーセットをオカンに預けた。


モヤシのオカンは、嫌そうな顔をしてそれを受け取ったが、



次の日、ゴミ捨て場にそのミニカーセットが捨てられていた。






ウチは何年かぶりに泣いた。







モヤシが日本に帰ってきて、ウチは真っ先に会いに行った。



ちゃんと謝ろう・・・そう思った。






目が合って、ウチはモヤシに駆け寄ろうとした。




・・・でも・・・




モヤシはすぐにウチから目を逸らした。



・・・そして・・・もう・・・


ウチとは一切接しようとはしてくれなかった・・・。



モヤシは・・・モヤシは・・・


ずっと我慢していたのだろう・・・。


それも解らずにウチは・・・調子にのって・・・自分の都合の良いようにばかり・・・。







「鍋衣ちゃん!鍋衣ちゃん!」



・・・はっ・・・。



「また考え事?鍋衣ちゃん。


もう閉店時間だよ!

はやく換金に行こうよ!」

気が付くと、外はもう真っ暗だった。

昼飯も、夜飯も食べていないのに、空腹感を感じる事なく、今日も丸一日時間が消し飛んだ。




ウチは福沢諭吉を数枚手に入れ、


御礼の1枚を潤太郎に手渡して、家に帰った。






「・・・ただいま・・・。」


「あぁ、おかえり、鍋衣。」



オカンはもう寝ていた。


オトンはテレビを見ていた。



オトンは・・ウチに言いたいことがたくさんあるんだと思う。

・・・でも、あえて何も言わないんだろう。


なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。





その夜、



ウチは夢を見た。



夢にはモヤシと鎌司が出てきた。




モヤシと鎌司は、時に楽しく、時に苦しそうな顔をしながら、


階段をずっとずっと上っていた。



ウチは、それをじっと見つめていた。


ウチは、嬉しくも苦しくもなかった。


ただ、二人を見つめていた。


二人の姿が、だんだんと小さくなっていくのを見つめていた・・・。

「鍋衣ちゃ〜ん。 お〜〜〜〜い。」


潤太郎の声。


朝だ。



ウチは窓から顔を出した。




「スマン!潤太郎!今日はちょっと血が出てきたから休むわ!」


「ええ!・・そっか・・・

理由が理由なだけに、何も言えないな・・・。

お大事に。

明日も無理そう?」


「明日は行くで!

また頼むわ!」


「了解!」



なぜか、この日ウチは潤太郎に嘘をついた。


昨日、鎌司やモヤシの事を考えてしまったから?

あんな夢を見てしまったから?



・・・なんだかわからないけれど・・・なぜか今日はパチンコに行かない方がいいような気がした・・・。



とりあえずウチは、歯を磨いた。



「・・・今日もお出かけ?」


オカンが少し不機嫌そうな顔で立っていた。


「・・・今日は、休む・・・。」



ウチはオカンと目を合わさずに言った。



「・・・そう・・・。


・・・ご飯、食べるでしょ。


味噌汁ついどくわね。」


オカンはそれだけ言うと、台所の方へ歩いていった。





最近、朝は食べない事が多い。




久々に食べたオカンの味噌汁と目玉焼きは、


とても美味く感じた。

「ごちそうさま。」


朝食を食べ終わり、ウチは部屋に戻ってゴロンと横になった。




・・・ウチは・・・本当にこのままで良いんやろうか・・・?



潤太郎・・・。


たしかに、良えやつや。


アイツのおかげで、ウチは食う事に困ってへん。


フリーターや、OLやってたころの三倍は稼げるようになった。

・・・でも・・・。


やっぱり、今のようにパチンコで稼ぐというのは、良くない事やと思う・・・。


そう・・・。


良くない事。





解ってたんだ。


今、ウチがやってる事は、正しく無い事だと。



・・・でも・・・。


ウチは、他に何をやっていいのか思いつかへん・・・。


「はぁ・・・。」



ウチはため息をついた。




コンコンコン




と、その時、ドアがノックされた。


「・・・誰や?」



「父さんだ。 開けていいか?」



「・・どうぞ・・・。」



ガチャッ



オトンが部屋に入ってきた。



「・・・わ・・・。

鍋衣・・・たまには部屋、片付けろよ・・・。」


「・・・めんどいもん・・・。」


「世の中、めんどい事だらけだよ。

たまには片付けくらいしときなよ。」


「・・・ぁぃょ・・・。」



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