花火大会(2) |
創作の怖い話 File.213 |
投稿者 でび一星人 様 |
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「裕史、ちょっとサイダー買ってくるから、ここでじっとしててね!」 「・・・うん・・・。」 おれが花火に見惚れている中、母さんはそう言って屋台の方へと向かっていった。 普段なら、こんな人ごみの中で一人というのは怖いのだが、 この時は大きな花火に見惚れていて、まったく怖さなど感じなかった。 ・・・ヒュ〜〜〜〜・・・ ・・・・ドン!・・・・ 花火が夜空に舞い上がる。 何度も何度も。 大きいのがあったり、ちょっと小さいのがあったり。 ツンツン・・・ 「ん?」 花火に見惚れているおれの腰辺りを、誰かが指で突付いた。 振り向くと、そこには同い年くらいでおかっぱ頭の女の子が立っていた。 「・・・一人?」 女の子はおれにそう聞いた。 「うん・・・母さんが、今ジュースを買いに行ってるから。」 そう答えると、女の子は寂しそうに、 「・・・そっか・・・お母さん居るんや・・・。」 と言い、下を向いてどこかへ去ろうとした。 おれは無性に女の子が可哀想になった。 「待って!」 気が付くと、女の子が着ている着物の裾を掴んでいた。 「・・・お母さん、居ないの?」 今度はおれが女の子に聞いた。 女の子はコクリと頷いた。 「君も一緒に、ここで花火を見よう。」と誘ったが、女の子は首を横に振った。 そして女の子は「・・・あっち。」と言って、少し離れた草むらの方を指差した。 「あそこに行きたいの?」 そう訪ねると、女の子はまたコクリと頷いた。 おれは、母さんが帰ってきたら心配するかな・・・とも思ったが、 女の子が可哀想なので少しくらいなら良いかと思い、一緒に草むらの方へと歩いて行った。 歩きながら、女の子と話した。 女の子の名前は【ほたる】といった。 お父さんもお母さんもおらず、この近くに住んでいるとの事だった。 おれはほたると一緒に、草むらと道の境目の所に座り、子供同士のたわいも無い話をした。 どこに住んでいるのか? 好きな食べ物は? スリーサイズは? ほたるの質問におれが答え、 おれの質問にほたるが答える。 話していると、ほたるは決して笑わないが、関西弁の似合うかわいい子だった。 おれはだんだんと、ほたるに惹かれていたのかも知れない。 「・・・なぁ、裕史君。」 花火を見ながら話を聞いているおれの肩を、ほたるがそっと叩いた。 「何?」 「ワタシ、裕史君の事気に入ったわ。 ・・・ワタシのお家に行こ?」 ほたるはおれの腕を掴んだ。 「・・・いや、母さんが戻ってくると思うし・・・。」 おれはほたるの手を振り解こうとした。 ・・・しかし、ほたるはガッシリとおれの腕を掴んで離さない。 「・・・さ、行こ。」 ほたるは草むらの中へとグイグイおれを引っ張っていった。 「いや、だから・・・やめてよ・・・離してよ!」 おれは必死にほたるの手を振り解こうとする。 ほたるはこちらを向こうともせず、ただひたすらに草むらの中へおれを引っ張って行く。 ほたるがおれを掴む力は、とても子供の・・・それも女の子のものとは思えなかった。 「痛い!痛いよほたる!」 ほたるが掴む手の指は、おれの腕に喰いこんでいた。 ほたるは尚もおれを引きずり、草むらの中へ中へと引っ張って行く。 「やめてぇ!」 そうおれが叫んだ時、ほたるは首をグルリと回しておれをじろりと睨んだ。 体は前を向いたままで、首だけ後ろを向いたという感じだ。 そしてほたるは初めておれに笑顔を見せた。 ニヤリと不気味に笑って。 おれはそこで気を失った。 「・・・ろ・・・し・・・。」 「・・・ろし・・。」 「裕史!」 ・・・気が付くと、おれは草むらの前に寝転がっていた。 目の前には、母さんの心配そうな顔。 「裕史!何してるのこんなところで!」 母さんは涙目になっていた。 「・・・あれ・・・母さん、いつの間に?」 母さんの話では、 サイダーを買って戻ってきた母さんは、おれが居なくなっている事に気づき、慌てて周りの大人に聞いて探しに歩いたらしい。 周りの大人が言うには、おれは【一人】でフラフラと、人があまり居ない離れの草むらへと歩いていったという事だ。 母さんがおれを見つけた時、おれは草むらに首だけを突っ込んだ状態で、小刻みに震えていたらしい。 母さんはそんなおれを草むらから引っ張り出し、 白目を剥いているおれを必死にたたき起こしてくれたようだ。 はたして、あれは夢だったのだろうか? おれは幻覚を見ていたのだろうか? →花火大会(3)へ ★→この怖い話を評価する |
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