疫病神様(6)

創作の怖い話 File.210



投稿者 でび一星人 様





「あぁ。 昔話とかで読んだ事あるだろう?厄病神。

アンタ、これに憑かれた為に、かなり幸せを吸い取られてるんだよ・・・。」


「・・・僕の幸せを・・・?」



「あぁ・・・


この腹のでっぱり具合から言って・・・


おそらく取り憑かれてから10年・・・って所か・・・。


アンタ・・・この10年、


なんかツイてなかった事たくさんあったろ?


思い出してミソ。」


(・・・ミソ・・・。)




ここ十年間・・・。


中学の頃、おばあちゃんが亡くなった事もそうなのか・・・?

野球に熱中して、将棋の成績が落ちた事も・・・。

高校1年の時、

好きになった人を失った事も・・・。

高校三年の頃、

相次ぐ怪我・・・。


その怪我が原因で・・・肩を痛めてプロ野球を断念した事・・・。


その後、奨励会でもなかなか勝てなかったのも・・・

去年、散歩中、高血圧で倒れた時に、飼い犬が行方不明になった事も・・・

これだけ太ったのも・・・。





全部・・・


全部・・・。



「・・・全部・・・この厄病神の仕業・・・って事なのか・・・。」


「・・・思い出したのかい・・・あぁ・・・。

アンタ、自分の力の割には上手く行かなかった事が多かったろ?

このオッサンのせいさ・・・。」


「・・・全部・・・このオッサンの・・・。」


水晶に映るオッサンは、のんきにハナクソをほじくっていた。



「・・・アンタ、このオッサンに憑かれてる以上、何やっても上手くは行かないよ・・・。」

「・・・そうだったのか・・・。」


僕は肩を落とした。


水晶に映るオッサンは、僕の頭を撫で撫でしていた。





僕は無性に腹が立ってきた。


「あの・・・このオッサン・・・どうすればとり除く事が出来るんでしょうか・・・。」



「あぁ・・・そうだね。


相手は一応【神】だからね。


アンタ自身が、日頃の生活を改めれば、自然に離れて行くよ。」


「・・・僕の日頃の生活・・・?」


「・・・あぁ・・・。

厄病神に憑かれた人間ってのはね、

ズボラになったりするのさ。

アンタ、部屋散らかってないかい?

ぐーたらになってないかい?

太陽の光が怖くなってないかい?

夜型の生活になったりしてないかい?

運動するのが嫌になってないかい?

人と接するのが億劫になったりしてないかい?」



・・・全部当てはまる・・・。

「フフ・・・。

そういう生活態度を、まずは改める事だ。

そうすれば自然と離れていくよ。

そのうち、アンタにも幸せが訪れる。」


・・・なるほど・・・


そういう事だったのか・・・。



「・・・わかりました・・・。


すいません、どうもありがとうございました・・・。


これから・・・生活を改めて行こうと思います・・・。」



「フフ・・・


そうかい。がんばりなよ。


じゃぁ、2000円。」


おばあさんは掌を差し出した。


「・・・え・・・お金取るんですか・・・。」


「当たり前じゃないかい。

アタシを誰だと思ってるんだい。

アタシはね・・・」



「・・・わかりました。

はい、2000円・・・。」



僕は2000円を手渡し、一礼してその場を去った。

・・・僕には厄病神が憑いていた・・・。


あんなものをまじまじと見せられたら、信じざるを得ない。


CGでどうこうできる映像では無かった・・・。


あのおばあさんは、おそらく不思議な力を持ってる人なんだろう・・・。






「・・・ただいま・・・。」


家に着いた頃には、もう夜の九時を回っていた。


「あ、鎌司おかえり〜〜。」


姉ちゃんが玄関まで迎えに来た。


もう寝る準備万端のようで、ジャージ上下で、髪を頭の上のほうでひとつくくりしていた。


高校時代まではオナジミだった姉ちゃんの【髪ひとつくくり】も、成人式を境に、今は外ではやらなくなっている。


「鎌司、さっき、優真から電話あったで。 お前、いい加減に携帯持てよ。」


「・・・え?優真君から・・・?」


「おう。ほんまについさっきやったから、かけ直したれや。」


「・・・わかった・・・ありがとう・・・。」




僕は酔っ払って寝ている父さんの部屋を横切り、電話の置いてある部屋に向かった。


父さんは小声で寝言を言っている。


もう67歳。


おじいさんだ。




電話のダイヤルを回す。


若い子にはわからないかもしれないが、


うちの電話は【回すタイプ】のやつだ。


黒電話では無い。

薄黄緑色電話だ。

黒電話ほど古いタイプでは無い。

チリリリリリリン・・・



 チリリリリリリン・・・



 チリリリリリりん☆・・



ガチャッ



『はい、優真っス。』


「・・・あ、優真君・・・八木 鎌司だけど・・・。」


『あ、八木さん!どうも・・・。』


「・・・うん・・・さっき電話くれたみたいだけど・・・。」


『あ・・・そうなんすよ・・・。』


「・・・どうしたの・・・?」


『ええ・・・あの、なんていうか・・・


昨日は、スイマセンでした・・・。


ついカッとして・・・あんな事言って急に帰っちゃったりして・・。』



・・・昨日のあの一件か・・・。


「・・・いや・・・僕のほうこそ・・・


心ない事言って悪かったよ・・・。」


『いえ・・・そんな・・・。』





 なんだか・・・



今日、あのおばあさんに占ってもらって、

少し気持ちが軽くなっていた。


「・・・そうだ・・・優真君・・・

ボール・・・返したいから・・・

明日にでもまた会えないかい・・・?」


『え・・・ええ。

もちろんっス!


またグローブ持っていきまスから、キャッチボールしましょうよ!』


「・・・うん・・・。」



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