疫病神様(5)

創作の怖い話 File.209



投稿者 でび一星人 様





ゴソゴソ・・・。



狩羽君はカバンをゴソゴソやりだした。


一体何をしてるんだろう・・・と思っていると、


「これ、鎌司さんのサインお願いしても良いですか!?」


・・・狩羽君はサイン色紙とマジックを取り出して、僕に渡した。



僕は断ろうと思ったのだが、

狩羽君の目はキラキラとしていて、

本当に僕のサインが欲しいんだろうと感じたので、僕は人生初サインをして、色紙を狩羽君に手渡した。



「ありがとうございます! これ、大事にします!」

狩羽君は色紙を紙に包み、また自分のカバンに直した。




 狩羽健治は僕に深々と礼をすると、どこかへ走って行った。



狩羽健治・・・。


帰りに今期の成績を調べたのだが、

彼は今日で2勝目という事だった。


ただ、僕以外に勝った相手が、今期1敗しかしていない、

間違いなく今期プロになるであろう【貧島三段】という事だった。


狩羽君の将棋には、なにか不思議な感じを受ける。


僕はなんとなくそう感じた・・・。





ガタンゴトン・・・



 ガタンゴトン・・・。


電車に揺られながら、


僕はいつのまにか熟睡してしまったようだ・・・。



「・・・はっ!」


気が付くと、家の最寄駅から数駅乗り過ごしてしまった。



「・・・いけない・・・。降りなきゃ・・・。」



2〜30分寝たので、なんだか少し頭がスッキリした。


降りた駅は山の麓。


山はまったく荒れてなんかおらず、

静かな夕暮れの景色を僕に与えてくれた。



「・・・歩いて帰るか・・・。」


僕はなんとなく自然を眺めながら歩きたいと思ったので、


乗り過ごした駅で追加料金を払って降りた。

「・・・なんか・・・懐かしいな・・・。」



占いの店が立ち並ぶ商店街。


そういえば、小さい頃、家族で何回かこの道を歩いた事があった。



 僕は重い体で商店街を歩く。


途中通り過ぎる占いの店は高齢化が進んでいるらしい。


商売もそんなにヤル気が無いらしく、


声をかけてくる気配はまったく無い。





 僕は坂になっているその商店街をなおも下り続ける。


そして下り終えた時だった。




「ちょっと、アンタ、占っていかないかい?」



商店街を出たところに、水晶球を机のような所に置いて座るおばあさんが居た。


「・・・。」


僕は聞えないフリをしようとした。



「オイ!アンタ、聞えてんだろ?」


おばあさんが急に大きな声で言うものだから、僕はビクっとしておばあさんの方を向いてしまった。



「フフ。やっぱり気づいてたね。 さ、座りな。安くしとくよ。」


僕はなんだか逃げれそうもない雰囲気に負けて、おばあさんの向かいに座った。



「・・・何か占ってほしい事はあるかい?」


「・・別に・・・。」


「フフ。そうかい・・・。

なら、流れを見てやるよ。

流れに沿った生き方をすれば、

人は上手く行く。

・・まぁ、参考にしたら良い。」




「・・・そうですか・・・。」



おばあさんは目を閉じ、一つ深呼吸をすると、水晶に手をかざし始めた。


ボワッ・・・。


水晶が少し光を放ったように感じた。

「・・・む・・・・ん・・・うむ・・・。」


おばあさんは額に汗をにじませる。



そして十数秒すると、


「ふぅ・・・。」

と、リラックスした感じで水晶から手を遠ざけた。



「・・・で、何か出ましたか・・・?」


僕はメガネをクイっとやってから聞いた。



「・・・うむ・・・出た・・・が、不思議だよ・・・。こんな事は初めてだ・・・。」


「・・・。」


・・・何か、特別と言って機嫌とっといて、占いグッズを売りつけるつもりだろうか・・・。


「・・・はじめてって・・・なにか特別な未来があるのですか・・・僕は・・・。」


「・・・うむ・・・。


はじめてだよ・・・。

アンタの未来なんだけどね・・・。

二つ・・・見えるんだ・・・。」



「・・・二つ?・・・」


「そう・・・二つの未来・・・。


不思議だよ・・・。」



「・・・具体的に・・・どういった事なんでしょうか・・・。

なにか占いグッズ買えば救われるんですか・・・?」


「アンタ・・・わたしを誰だと思ってるんだい?

・・・まぁいい・・・。

あたしゃ、そんな胡散臭い事するようなペテン師じゃぁないよ。

安心しな。」



「・・・す、すいません・・・。」


「わかりゃ良いよ・・・わかりゃぁ。

普通はね、

人生ってのは一本の線なんだ。

人はその線を辿って生きる。

線は1本なんだから、

未来も過去も一つ。


・・・今のアンタから見て、

複数の過去なんてありえないだろう?

過去は一つ。

未来も、もっと未来から見れば過去となる。

複数の過去が無いように、複数の未来っていうのも存在しないのさ。」


「・・・なるほど・・・。」


「ん・・・アンタ、物分りが良いようだねぇ。

その頷き方は、ちゃんと理解した頷き方だ。

わたしは解るんだよ。

そういうのはね。


・・・で、

アンタの場合、その1本の線が、

途中で枝分かれしてるんだよ・・・。」


「・・・枝分かれ・・・。」

「・・・そう・・・。

私の今までの経験上、ありえない事なんだけどね・・・。」


「・・・で、僕はどっちを辿るんですか・・・。

そしてそもそも、

その二通りの未来って、何と何なんでしょうか・・・。」


「うん・・・。


それは・・・言えないねぇ・・・。」


「・・・え・・・言えない・・・?

おばあさん・・・占う気、ありますか・・・。」


「ごめんよ・・・。


ま、まぁ、この話は置いておこう。」



「・・・超気になるんですけど・・・。」


「つ、次は現状のアンタを占ってやるよ。


ほ、ほら、手を出して。」



僕は腑に落ちなかったが、両手をおばあさんに差し出した。




「う・・む・・・む!?こ・・・これは・・・。」


おばあさんの顔色が急に変わった。


「・・・また何かあったんですか・・・?」


「アンタ・・・ここ数年、ツイて無い事がたくさん無かったかい?」



・・・ありまくりだ・・・。



「・・・まぁ・・・そうですね・・・。」


「・・・やっぱり・・・。」

おばあさんは、そっと僕の手を離し、水晶に手をかざした。


そして水晶を見たまま、おばあさんは僕に


「・・・アンタ、特別だよ・・・。

こっち側に回って、水晶を覗いてみな。」


と僕を呼んだ。


僕も流れ的にしれっとおばあさんの後ろに回って水晶を覗いた。


・・・気のせいじゃない・・・やっぱり水晶は怪しく光を放っている・・・。



水晶には僕とおばあさんの顔が映っていた。


「・・・アンタ、水晶に映っているのが見えるかい?」


「・・はぁ・・・僕と、おばあさんの顔が映っていますね・・・。」


「ハン・・・そこじゃないよ。アンタの肩口のところだよ。」


「・・・え・・・。」



僕は、水晶に映る自分の肩の辺りに視線をやった。


「・・・うわっ・・・。」



思わず声が出てしまった。


僕の肩口に、頭が禿げ、体は痩せ細り、お腹だけがぽっこりと出た中年男性のような小人が乗っかっていた。

その小人はぱくぱくと、空中から何かを掴み取り、口に入れている。



「・・・お、おばあさん・・・この小人は一体・・・。」


「・・・見えたかい・・・コイツは、【厄病神】だよ。」


「・・・厄病神・・・?」



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