リトル・へご(3) |
創作の怖い話 File.203 |
投稿者 でび一星人 様 |
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僕とオジサンはトコトコと夜の川辺を歩いた。 「ワン・・・。(坊主・・・危なかったな。 さっきの三匹は、 この辺りを仕切っている奴らだ。イヌの間では【バウーズ】と呼ばれている。 あの太ったイヌが【ジャイン】。痩せたイヌは【スネーク】。性 格の悪そうなメスイヌが【シズク】という名前だ・・・。)」 「ぱん。(そ・・そうなんだ・・・僕、危なかったんだね・・・。 ところでオジサンは一体何者なの? あの三匹がとても怯えていたけど・・・。)」 「ワン(・・オレ様の事は気にするな・・・それより坊主は、自分の事を考えろ・・・。 これから坊主は野良として生きていなかきゃならないんだからな・・・。)」 「ぱん・・・。(・・・野良・・・。もう、カマジとは会えないのかなぁ・・・。)」 「ワン(・・・会えないと決まったワケでは無いが・・・その可能性は大きいだろうな。 とにかくだ、自分の力で生きていく力を身に着けろ。 強くなれ。 今の坊主では、とてもじゃないが生きてはいけない。)」 「・・・ぱん・・・。(・・・そっか・・・。僕・・・僕・・・。)」 僕はとても悲しくなった。 「ワン。(坊主・・・少しここで待ってな。)」 夜が明けてきた。 畑の前に来た頃、 オジサンはそう言って畑にゴソゴソと入っていった。 そしておいもさんを採ってきてくれた。 「ワン(坊主、食え。 腹空いてるだろう・・・。)」 「ぱん(オジサン、生でんぷんは人体に良く無いんだよ?)」 「ワン(あぁ。たしかにな。 だが、オレたちはイヌだ。)」 「ぱん(あ、そっか。 いただきます。)」 僕はオジサンが採ってきてくれたおいもさんを食べた。 お腹が空いていたので、とてもおいしく感じた。 「ワン(坊主、覚えておけ。 『食える時に、食っておく。』 野良の鉄則だ。心に刻んでおけ。」 「ぱん(う・・・うん・・・。刻んでおくよ・・・。)」 僕は、なんでせっかく覚えた事を刻まなければいけないのかという疑問はあったけど、 心の中で『食える時に、食っておく』という言葉を包丁で千切りにした。 と、突然視界が揺れた。 オジサンが僕の首根っこをくわえて走りだしたみたいだ。 「ぱん(オ・・・オジサン・・どうしたの急に?)」 「・・・ワン(やっかいな事になった。・・・。後ろを見てみろ。)」 後ろを向くと、クワを持ったおじいさんが僕らを追いかけて来ていた。 「ワン(あの畑の持ち主だ・・・。 イモを採ったのが見つかったみたいだな・・・。)」 「ぱん!(ええ!あのおいもさん、勝手に盗ったの!!?)」 「・・・ワン(・・あぁ。 そうでもしないと生きていけないんだよ・・・。野良は・・・。 キレイ事だけで生きていける世界じゃ無いんだ。)」 「ぱん・・・。(そ・・・そっか・・・。)」 オジサンは僕をくわえたまましばらく走った。 でも、クワを持ったおじいさんはバテる事なく僕らを追いかけてくる。 「ワン・・・。(チッ・・・厄介だな・・・。坊主、少しここで待ってろ。)」 オジサンはそう言うと、僕を下に降ろし、クワを持ったおじいさんの方に走っていった。 「このワン公め!ぶちころしてやるっ!」 クワをもったおじいさんはおもいっきりクワをふり降ろした。 「ワンッ(フン。甘いな。)」 オジサンは軽快にその攻撃を交わし、 おじいさんの足に思いっきり噛み付いた。 「い・・・イタァ〜〜〜イ!」 おじいさんはクワから手を離し、その場にうずくまった。 「ワン(・・今だ、坊主逃げるぞ。)」 オジサンは僕の首根っこをくわえて、また逃げ出した。 クワを持ったおじいさんは道の真ん中でうずくまり、ゴロゴロと悶えていた。 しばらく逃げると、オジサンは大きな洞穴みたいな所に入った。 「・・・ワン(もうここまで来れば大丈夫だろう。 坊主、だが今日1日はこの洞穴で静かにしてる事だ。 さっき人間を噛んだから、ホケンジョに通報されてるだろう。 ホケンジョのやつらに捕まったら、 THE ENDだ・・・。)」 「ぱん?(ホケンジョ?)」 「ワン(ホケンジョって言うのは、オレたちみたいな野良イヌを捕まえては毒殺する人間の組織だ・・・。 過去何匹もの友をそうやって殺された・・・。)」 「ぱん・・・。(そ、そうなんだ・・・怖いんだね・・・。)」 「ワン・・・。(あぁ・・・オレ様も実際に見た事は無いんだがな・・・。 そこに連れて行かれて、なんとか逃げ出してきた昔の仲間から話を聞いた。 まさに野良イヌにとって地獄絵図だったそうだ・・・。)」 「ぱん・・。(今日1日、ここでおとなしくしてます・・・。)」 僕とオジサンは1日洞穴でじっと過ごした。 オジサンはほとんど目を瞑って寝ていた。 オジサンは、『寝れる時に寝る。野良の鉄則だ。』と、また僕に教えてくれた。 なので僕も、オジサンの横で眠った。 昨日ほとんど寝ていなかったせいか、 僕は熟睡する事が出来た。 そして夜。 目を覚ますと、隣にオジサンの姿は無かった。 窓みたいな穴から見えるお月様が、とてもキレイだった。 「ぱんっと。(よいしょっと。)」 僕はオジサンを探そうと、起き上がった。 ・・・ん? (ワンワンワン!) オジサンの鳴き声が遠くから聞える・・・。 僕は声のする方に駆け寄った。 「ぱん?(ん?)」 嬉しそうに尻尾を振るオジサンが見えた。 (オジサン・・・何してるんだろう・・・。) 「ぱ・・・(おじさ・・・)」 僕は声をかけようとしたが、躊躇った。 →リトル・へご(4)へ ★→この怖い話を評価する |
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