河童(2)

創作の怖い話 File.198



投稿者 でび一星人 様





ガラガラガラ・・・


「ごめんくださ〜い。」


チャイムらしきものが付いていなかった為、

おれは玄関を開けてゴメンクダサイを言った。





・・・!!?



 玄関には、おじいさんとおばあさんが正座をしてチョコンと座っていた。



そしておばあさんが口を開く。


「・・・ようこそ、おいでくだすったぁ。


八木さん親子ですなぁ?」



「は・・・はぁ・・・そうですが・・・

あの・・・百朗さんのご両親様ですか?

ずっと、ここでお待ちになって下さったのですか??」



「・・・ええ。

そうですじゃ・・・。

いつ来ても良いように、今朝からずっとオジジと二人で待っておりましたのじゃ・・・。」



「あ・・・朝から・・・。

それは悪い事をしました・・・。

気を使わせてしまい、本当に申し訳ございません・・・。」



「いえいえ・・・気にせんで下され・・・。


申し遅れました。 ワタシら、百朗の父と母で、


こっちが父の、【樋湯亜 棒亥】

そしてワタシが母の【樋湯亜 藍愛】ですじゃ・・・。」



「か、変わったお名前ですね・・・お二人とも・・・。」



「時代のたまものですじゃ・・・。

何せワタシら、もう100歳を超えてますでの。

ケーッケッケッケ。」


老婆は数本しか無い歯を見せて笑った。

「・・・さぁさ、百朗が待ってます故、奥へどうぞ・・・。」


お爺さんはゆっくりと立ち上がり、おれ達を奥の部屋に案内した。




ギィ・・・



 ギィ・・・



ギィ・・・






 薄暗い木造の廊下を歩く音が鳴る。


鍋衣は少し雰囲気を怖がっているのか、おれの服の裾をしっかりと握っている。


ヤンチャでずっと通ってきた娘も、やっぱり女の子なんだと思った。



 ギィ・・・


        ギィ・・・




 しばらく歩くと、突き当たりに部屋らしき所が見えてきた。



「・・・さ、ここですじゃ。


オ〜イ、百朗。


来なすったよ。お客さんが。」



 おれたちは部屋に入った。



「・・ん。おお!八木ちゃん!やっと来たかぁ!」


「百朗さん・・・。」




 そこには、元気な笑顔の百朗さんが居た。


百朗さんは、ワラで何かを作って作業をしている感じだった。



「百朗さん、お元気そうで。」


「いやぁ〜八木ちゃん・・・。歳とったなぁ。 

もう、20年以上になるのかな。こうして会うんわ。」


「・・・そうですねぇ・・・。すっかり頭も薄くなりました・・・。」


「はっはっは。それは仕方ないで。 それより、長旅疲れたやろう。

今日はゆっくりして行ってな。

母さんも腕にヨリをかけて、おいしい手料理作ってくれたみたいやし。」


「あ、はい。どうもありがとうございます。」



 20年ぶりに見る百朗さんは、80代半ばとは思えない若々しさだった。


空気の良いこの土地で、毎日草や土に触れて過ごしている賜物(たまもの)だろうか。

「・・・八木ちゃん、この子が八木ちゃんの娘か。

エライべっぴんさんやんかぁ。」


百朗さんは鍋衣を見てそう言った。


鍋衣は聞えないフリをしていたが、

嬉しそうな感じ丸わかりだった。




 「あ、おばあさん、ウチ、食事の準備手伝いますわ!」



鍋衣は台所で夕飯の準備をしているオババの元へと駆け寄っていった。


・・・機嫌が良くないと、まず鍋衣はこんな行動はとらない・・・。






















  「う〜〜ヒック。」



 もう、随分夜もふけた・・・。


おれと百朗さんはしこたま飲んでいた。



オジジとオババは、既に就寝。


鍋衣は夕食開始と共に、オチョコ1杯のシャンパンを飲み、

泥酔して、今は熟睡状態に入っている。



 「いやぁ・・・百朗さん、やっぱり酒強いですねぇ〜。」


「はっはっは。

八木ちゃんこそ、強うなったなぁ。」



 男二人、深夜に酒を飲み交わす。


百朗さんとは、20年以上前によくこうして二人で飲んだ。


・・・懐かしい思い出話に花が咲く。

「・・・あ!百朗さん、あの将棋盤、あの団体戦でとったやつですね!」


「ん?あぁ。あん時は楽しかったなぁ。

あの将棋盤な、神棚にああやって飾っとるんや。

ほしたら、何やらものすごく家族皆体調が良うなってなぁ。

きっと、守り神になってくれてるんやろうな。」


「そうですかぁ・・・。

健康って、良いもんですね。ははは。」


「はっはっは。そういえば、八木ちゃん。

息子はどないしたんや?」


「あぁ、息子の鎌司ですか・・・。

アイツ、最近少しノイローゼ気味でしてね・・・。

部屋に篭って、ずっと将棋の勉強ばかりしてるもんですから、

『たまには気晴らしでもどうだ?』って、

今日誘ったんですが、

・・・えらくキレられましてね・・・。

『僕には1分1秒も無駄には出来ないんだよ!』

ってね・・・。

かつては高校野球でアイドル級だったアイツも、

今ではすっかり小太りメガネですよ・・・。」



「そ、そうなんかぁ・・・。

八木ちゃん、

プロ棋士も良いけど、

そこを目指す為に心まで壊してもうたら、元も子もないんちゃうか?」


「そうなんですよね・・・。

だからおれも、

今期もしプロになれなかったら、

プロ棋士の道を諦めさせようかなって思ってるんですよ・・・。

幸い、社長が『鎌司君なら雇ってやる。』とまで言ってくれてるんでね・・・。」



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