無人の玄関(2)

創作の怖い話 File.188



投稿者 でび一星人 様





「せや、鎌司、この子の名前、何にする?ウチの考えた名前はなぁ〜・・・」

「・・・名前って姉ちゃん・・・飼う許可出てないだろう・・・。」

「ぱんっ!ぱんっ!」

「ほら、でも鎌司、めっちゃ鎌司に懐いてるでコイツ。」

「・・・。」


 子犬は、ものすごく潤んだ瞳で僕を見ている・・・。


「・・・雨が止んだら・・・捨てに行こう・・・。時に、人は心を鬼にしなきゃいけないんだ・・・。」

僕は子犬の目から自分の目を逸らし、姉ちゃんに強くそう言った。


「えぇ〜〜〜そんなぁ・・・。鎌司頼むわぁ〜〜〜。」


「・・・僕に頼まれても無駄だよ・・・。僕はクリントンでも、オバマでも無い。

この家では、父さんが神であり法律だ・・・。

僕は杉村たいぞうにしか過ぎないんだよ・・・。」


「鎌司・・・。オマエ、最近、いよいよおかしな世界に旅立った感があるな・・・。」


「・・・あ、姉ちゃん、雨あがったよ。行こう。」


僕は子犬を抱え、外に出た。

「ま、待てや〜鎌司〜〜〜!」

姉ちゃんも僕を追って外に出てきた。


 


 
チュン・・・



 チュンチュン・・・。



雨上がり。


雲の隙間から差し込む光に照らされた地面はとても不思議な感じを僕に与えてくれた。


ペロッ。


抱きかかえている子犬が、僕の頬を舐めた。


「なぁ〜〜〜鎌司ぃ〜〜〜。かわいそうやんかぁ。なあ!頼むって〜。飼える方法考えてぇ〜な〜。」


姉ちゃんは少し遅れて僕に付いてくる。


 子犬はとても嬉しそうな目で僕を見つめている。



 「・・・ダメだよ・・・。ウチで犬は飼えない・・・。」


僕は心をデビルにして、山へと歩いていった。


「なぁ〜〜〜鎌司ぃ〜〜〜〜。」


早足に歩く僕に、少し駆けぎみに付いてくる姉ちゃん。


 僕はくら○り峠を突き進む。


「鎌・・はぁ・・はぁ・・ジ・・・。ハァハァ・・・。」


慣れない山道に、姉の息があがる。

「・・・ここまで来たら、もう大丈夫だろう・・・。」


山の中の広場っぽいところ。


僕はそこで子犬を放した。


「ぱんぱんっ!!!」



子犬は元気いっぱいに吠え、山の中へ走って行った。


「あぁ〜〜へご吉ぃ〜〜〜〜!」

姉ちゃんは悲しそうに、数歩、子犬を追った後、肩を落とした。


「・・・姉ちゃん・・・へご吉って、ネーミングセンス無さすぎだよ・・・。」


 僕は落ち込む姉ちゃんの肩を抱え、山を下った。


姉ちゃんは泣いていた。


いつもはあんなに明るくて、むしろウルサイ姉ちゃんが、とても静かな姿に、正直僕の胸は痛んだ・・・。




「・・・姉ちゃん、アイス、食べなよ・・・。」


下山後、

僕はタバコを買う為にコンビニに寄った。

そのついでに、姉ちゃんの好きなアイスも一緒に買って手渡した。


「ありがとう・・・鎌司・・・。」


姉ちゃんはうつむき加減でアイスを受け取り、ちゃんと袋からアイスを取り出してちょこちょこ食べた。

姉ちゃんがこんな食べ方をするなんて、やはり相当落ち込んでいるんだろう・・・。

帰り道の公園。

「・・姉ちゃん、少し休もう・・・。」

僕は姉ちゃんと一緒に、ベンチに腰掛けた。

「はぁ・・・。」

姉ちゃんは前かがみになって、下を向いている。

「・・・。」

僕は何て声をかけていいのか解らず、ポケットからさっき買ったタバコを取り出した。

そしてショートホープを1本取り出し、火をつける。



「ゴホン・・コホコホ・・・。」

「・・あ、ゴメン・・・。」


タバコが苦手な姉ちゃんが咳払いをした。

僕は気を使って、姉ちゃんから少し離れ、反対方向を向いたが、

やはりどうしても煙は向こうへ行くだろうから、気まずくなってすぐに火を消した。


「・・姉ちゃん・・・そろそろ帰ろっか・・・。」


「・・・うん・・・。」


僕と姉ちゃんは立ち上がった。

・・・なんだか、こんなに落ち込んでいる姉ちゃんを見るのは初めてかもしれない・・・。

双子の原理なのかどうかはわからないが、僕まで辛くなってきた・・・。


「ぱんぱんっ!」


・・・あの子犬・・・変わった鳴き方をしていたな・・・。

「ぱんっ!」


やっぱり・・・捨てるなんて悪いことしちゃったかな・・・。

他に方法はなかったのかな・・・。


「ぱんぱんっ!」


なんだか足元が生暖かい。


「ぱんっ!!」


「・・・ん?」


足元を見る。



「・・・な、なんじゃこりゃぁ!!!」

僕は、キャラにあるまじき叫び声をあげてしまった。

なんと、さっきの子犬が僕の足元におしっこをひっかけていたからだ。


「・・・お、オマエ、なんて事してるんだよ!・・・それに、なんでここに・・・?」


「へご吉ぃいいいいい!!!」


姉ちゃんはものすごい笑顔で、子犬を抱きかかえた。


「ぱんっ!!!」


子犬も元気に吠えて姉にしっぽを振っている。


「オマエ、ウチらのニオイ嗅いで戻ってきたんやなぁ!!さすが、イヌ科やで!!!」


姉はものすごく嬉しそうだ。


「・・・やれやれだぜ・・・。」

僕はとある帽子を脱がない人の口癖を真似た・・・。

カー


    カー





カラスが鳴いている。


しかし、僕らは帰る事が出来ずに、夕暮れの公園のベンチに座って居た。


「ぱんぱんっ!!!」

子犬は尻尾を振って、姉ちゃんの膝に座っている。


「・・・。」

僕は無言。



「・・・なぁ、鎌司。ホンマ、どないしよ・・・。 コイツ、絶対また捨てても戻ってくんで。 んまちがいない!」

「・・・姉ちゃん・・・今更N居の物まねかよ・・・。」


 僕は何か良い案が無いかと、知恵を張り巡らせていた。


「鎌司!そういう時はな、唾をおでこにつけたらええねん。 チーンって、ひらめくらしいで!」

「いっ○ゅうさんかよ・・・。」


そんな姉の助言を無視し、うつむき加減で考えていると、


ペロッ


子犬が僕のコメカミのあたりを舐めた。


「・・・な、なんだよ・・・くすぐったいな・・・。」






チーーン!




「・・・ん?」


どこからともなく、チーンって音が聞えた。


あたりを見回す。


「ど、どうした?鎌司?」

姉ちゃんはそんな僕を見て、不思議そうな顔をしている。


「・・・今、チーンって、聞えなかった・・・?」

「い、いや・・・何や、鎌司、暗くなってきたからって、シモネタか?」

「・・・いや・・・聞えなかったんなら良いよ・・・余計な事はしゃべるな糞姉・・・。」

「お・・・おう。ゴ、ゴメン。」



僕はまた、良い案が無いか考えようとした。



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