恐怖体験(9)

創作の怖い話 File.185



投稿者 でび一星人 様





本当に幸せだったんだ。

仕事も順調だったしね。


でも・・・

ある日・・・







花子ちゃんはまた、突然姿を消してしまったんだ。

僕と息子を置いて・・・。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「そ、それじゃあ、モモマーとモモ天は、血繋がってへんっちゅーことか?」

話を聞き、うちは当然の疑問を投げかけた。

「・・・ああ。そうだよ。

僕と典男は血が繋がっていない。」


「それを・・・自分の息子のように育てたんか?

母親がおらんようになったのに・・・

実質他人の息子を、モモマーが育てたっちゅー事なんか?」



「フフ・・・。

周りから見れば、そう映るだろうね。

でも・・・ね。

僕は本当に花子ちゃんが好きだったんだ。

その好きな人の子供なんだよ。

いわば花子ちゃんの分身なんだ。

・・・それはもう息子と同じさ。」


モモマーは、立てかけられているモモ天の子供の頃の写真を優しく見つめながら言った。


「・・・う〜ん・・・

ウチはようわかれへんわ・・・。

その女の勝手な行動に腹立つくらいやけど・・・。」



「・・・そっか・・・。」

モモマーは今度は奥さんの写真を眺めて言った。

「鍋衣ちゃん、

【愛】ってね、

この歳になって、一体どういうものなんだろうって考えたらね、

【許せる】って事なんじゃないかなって、思うんだ。」

「・・・許せる・・・?」


「うん・・・。

僕は1度も花子ちゃんに迷惑をかけられたなんて感じた事がないんだ。

それよりむしろ、感謝の気持しか出てこないんだよ。

一緒にいてくれてありがとう。

こんなに良い息子をくれてありがとう。

たくさんの思い出をありがとう・・・。

そして、

僕に、人を好きになるという気持を教えてくれたのも・・・

花子ちゃんだからね・・・。」




 ウチはモモマーの話を聞いて、

最初はまったく理解できへんかったけど、

そういう形もあるんかなって、

少しやけど思えるような気がした。




 モモマーは、花子ちゃんが去った後、

花子ちゃんを探し歩く為に退社届けを出したらしい。

でも、モモマーの営業成績はけっこうよかったらしく、

会社は引き止めるばかりで許可してくれなかった。

だからモモマーは仕方なく女子社員にわざとセクハラをし、

【クビ】にしてもらえるようにしたという事だった。

 その後も全国各地を点々とし、

情報があれば時には仕事を辞めて花子ちゃんを探すという生活を続けた。

 それが、モモ天を連れて色々と仕事を変えていた理由と言う事だった。



 ただ、モモマーは自分の為だけに花子ちゃんを探していたのでは無く、

モモ天に母親の温もりを与えてあげたいという思いも強かったらしい。

でも、結局花子ちゃんは見付からなかった。


「・・・これが、僕と花子ちゃんの出会いと別れさ・・・。

ハッピーエンドを期待したかい?

・・・現実なんて、

こんなもんだよ。」


そういうモモマーはやっぱりどこか寂しそうだった。

・・・一人の女性の為に、人生を棒に振った老人・・・。

モモマーは世間からはそう見られるのかもしれない。

でも・・・

でもウチはそんなモモマーの純粋な心が痛いほどよく解った。

モモマーは決してストーカーのような自分勝手な男やない。

モモマーは、本当に花子ちゃんが好きやったんや。

【好き】

ただそれだけやったんやろう・・・。




「ところで、鍋衣ちゃん。」

「・・・はっ、ん?な、何や?」

「もうそろそろ、典男が風呂から出てくるだろう。」

「な、なんで解るんや?」

「フフ。アイツは僕の息子だ。 風呂に大体どのくらい入るのかくらいは解るよ。」

「そ、そうなんか。」

血が繋がってないとは思えない。

「鍋衣ちゃん、今話した事は、典男には黙っといて欲しいんだけど・・・。」

「そんなん、言われんでも解ってる!」

「そっかそっか・・・。そうだよね。鍋衣ちゃんは、人として大事な筋は通す感じだもんね。」

「いやぁ〜それほどでも・・・。」

「フフ・・・。

じゃ、僕は今から帰るよ。

鍋衣ちゃんも気をつけて帰りなさい。」

?????

モモマーは不適?な笑みを浮かべながら続けた。

「鍋衣ちゃんと典男が結婚していない事くらい、

最初からわかってたよ。

アイツが結婚なんて・・・

どうせ僕を安心させる為の嘘なんだろうって思ってたけどね。」

「ほ、ほえ・・・?」

な、なに?

ホンマにバレてたんか・・・?

それともカマかけてるんか・・・?

ウチは何も言えず、モモマーの顔から目が離せなかった。

「鍋衣ちゃん。

一人の女性を生涯愛した僕にはね、

解るんだよ。

2人が、本当に愛し合ってるかどうかくらいは・・・目を見ればね。」


モモマーはジャンバーを羽織り、傘を広げて玄関に立った。

「じゃあね、鍋衣ちゃん。

今日君に色々と話す事ができて、少しはスッキリしたよ。

ありがとう。

息子の事、

従業員としてしっかり支えてやって下さいね。」

モモマーは丁寧に頭を下げた。


「モモマー・・・

モモマーも、体気をつけてな。

あと・・・

奥さん、見付かるといいな!」

「・・・ありがとう・・・。」

最後にモモマーは優しい笑みを浮かべた。

そして雨の降る夜道を歩き、闇の中に消えて行った・・・。






「ふぅ〜サッパリwww」


モモマーの予想は的中だったようで、

それを見計らうようにモモ天が風呂から出て来た。


「ゴメンネ!鍋衣ちゃん、僕長風呂なんだよ・・・アレ?父ちゃんは?www」

「モモマーなら帰ったで・・・どうやら、ウチらが演技してた事お見通しやったようやわ。」

「ええwwwなんだよ、じゃあ無駄な演技しちゃったのかよwww」

「そういうこっちゃ・・・。」

「あぁ〜あのクソオヤジめ〜〜〜。」



モモマーのリアクションや話を聞いていると、

やっぱり本物の親子としか思いようが無かった。

モモマー。

きっと彼は、

本当の愛を持って、

モモ天を育ててきたんやろう。



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