恐怖体験(8)

創作の怖い話 File.184



投稿者 でび一星人 様





接待や付き合いを利用して、

僕はいろんなお店に行った。

そこで【花子】という名前の女性を片っ端から探した。

とりあえず花子という名前の女性を指名するようにしたんだ。

 こうしていれば、いつかまた逢えるかもしれない。

いつか・・・また・・・。



 しかし花子ちゃんは見付からなかった。

あの頃の僕はいろんなお店の花子という名前の子に、

本物の花子ちゃんを重ねて、心の安定を図っていたのかもしれない。



 僕の虚しさという心の穴は、日に日に広がって行った。

でも・・・

それを埋める方法が思いつかなかった。

僕は【偽り】の花子という存在で、一時的に心の穴を埋め続けた。



 そのうち後輩も出来た。

オトボケキャラだった僕の下に配属された彼は大変だったと思う。

 各お店の花子ちゃんも、それぞれ辞めたりして入れ替わりがあった。

偽りのたくさんの花子ちゃんは、新陳代謝するように変化していったんだ。



 僕が33歳の頃だった。

1本の電話が家にかかってきた。

「・・・もしもしw?」

『・・・。』

無言電話か?

「もしもし?もしもーしw?」

『・・・。』

「もしもし?w切るよ!」

『・・・あの・・・。』

女の人だった。

「・・・はい?w」

『百瀬・・・真一さん・・・ですよね?』

「・・・そうですが・・・。w」

『あの・・・一言、お礼が言いたくて・・・ありがとう・・・。』

「は?えっと・・・意味がわかんないんですがwww」

『そう・・・ですよね・・・ごめんなさい。 おじゃましました・・・

これからも元気で過ごして下さい・・・坊ちゃん・・・。』

坊ちゃん?

「え、あ・・ちょ・・まwww」

『ガチャリ・・・ツー ツー・・・』


坊ちゃん・・・

今、電話の女性は【坊ちゃん】と言った。

間違いない・・・。

僕は急いで外に飛び出した。

間違いない。

電話の女性は・・・








花子ちゃんだ!




僕は外を駆ける。


昔、花子ちゃんと歩いた場所を、ただひたすら駆け巡った。

どうしてそうしたのかは解らない。

僕は町を駆け巡った。



そして見つけたんだ。

花子ちゃんは、川のほとりに立っていた。

じっと川を見つめていた。


「花子ちゃん!w」

僕は叫んだ。

花子ちゃんはゆっくりと振り向いた。

そして、優しく微笑んだんだ。

『サヨウナラ・・・』

花子ちゃんの口はそう動いた。

「ま、待って!w」

僕は花子ちゃんに駆け寄る。

花子ちゃんはそんな僕を見て、またゆっくりと川の方を向き、

そしてゆっくりと川の中へ飛び降りた。

ガシッ!









「花子ちゃん!何バカな事してんだよ!w」



間に合った。

僕は花子ちゃんの腕をしっかりと掴んでいた。


花子ちゃんは何も言わなかったし、手を振り解こうともしなかった。







 花子ちゃんをそこから引き上げ、僕は花子ちゃんと一緒に屋台のラーメンを食べた。


きっと、何か花子ちゃんは辛い思いをしたんだろうという事はわかった。

でも僕はあえて何があったかは聞かなかった。

さりげない会話を交わした。



花子ちゃんは最初は下を向いて何も話してくれなかったけど、

しばらく一緒にラーメンを食べていると少しずつ昔の話をしてくれるようになった。






その晩、僕は家に花子ちゃんを連れて帰った。

このまま彼女を一人にしては、また何を考えるか解らない。

そう思ったからだ。




 家につれて帰り、来客用の布団を隣に敷き、

その日は何もせずに寝たよ。

 ただ、手だけは握っていた。

そうしていないと、また花子ちゃんがどこかへ行ってしまいそうな気がしたから・・・。

翌朝、

隣にちゃんと花子ちゃんが寝ててくれて、僕はホっとした。

「おはようw」

花子ちゃんにそっと挨拶すると、

「おはよう。」

と、挨拶を返してくれた。



 その日、

僕は花子ちゃんにあれから何があったのかを聞いた。

 花子ちゃんは温室育ちの僕に、やはり気を使っていて、

あのまま僕の近くにいたら、悪影響を与えてしまう。

そう思い、ぼくの前から姿を消したという事だった。



 その後、花子ちゃんは客だったお金持ちの男と結婚した。

そうすれば幸せになれると信じていた。

悪い亭主ではなかったらしい。

でも・・・

花子ちゃんの心にはなぜか虚しさが居座った。

きっと本当に好きな人では無いから・・・。



 それでも花子ちゃんは毎日を一生懸命に過ごした。

幸せになろう。

その思いで必死に毎日を生きた。


 
 でも、ある日・・・

旦那だった人が首を吊った。

旦那は、花子ちゃんに内緒で多額の借金を作っていた。

しかしそれを苦に自殺したワケでは無く、

会社の部下を使い、自分に多額の保険金をかけ、

そして自殺したと言う事だった。


 花子ちゃんは愕然とした。

2人の間に、ようやく子供が出来た矢先の出来事だった。



 自分は幸せになれないのか?

自分は幸せになってはいけないのか?

絶望の淵に立った花子ちゃんは、

(もう生きるのにも疲れたな・・・。)

と思い、自分も身を投げようと決めた。

おなかの子と共に・・・。


 
 そんな時、ふと屋台が目に入った。

そういえば、自分も昔屋台で働いていたな・・・。

そんな事を思うと、僕の顔が頭の中に浮かんできたらしい。

『最後にお別れがしたい。』

そう思い、僕に電話してきたと言う事だった。



僕は何て声をかけていいか解らなかった。


 ただ、花子ちゃんをとても愛おしく思って・・・。


 気がつくと、そんな花子ちゃんを抱きしめていた。

あの日と同じように・・・

花子ちゃんが姿を消したあの日のように・・・。



 その日から、僕と花子ちゃんは一緒に暮らすようになった。

 

僕は幸せだったよ。



 花子ちゃんも、僕と一緒に生活する中でだんだんと心からの笑顔を取り戻して行ってくれて・・・。

ある日僕は花子ちゃんにプロポーズした。

「・・・本当に、私なんかで良いの?」

花子ちゃんは戸惑いながらも涙を流してOKしてくれた。



 そして数ヵ月後、

子供が生まれた。

花子ちゃんと一緒に家に帰って来た息子は、僕の顔を見てニッコリと笑った。

その笑顔を見て、僕は決めたんだ。


この子とは血が繋がっていないけれど、

僕は自分の息子のように育てよう。

立派に育てよう・・・ってね。



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