恐怖体験(4)

創作の怖い話 File.180



投稿者 でび一星人 様





「父さんのアホ!」

僕はそう言って家を飛び出した。

無我夢中だった。

危険を察知する本能が働いたんだろうね。

そして子供一人で学校に避難したんだ。

周りの大人も優しくしてくれてね。

避難所で2日ほど、僕は水が去るのを待ったよ。

必死で避難所まで来たものだから、父さんや母さんが心配にもなったけど、

水が引くまでは帰れない。



だんだんもどかしくなり、水が引いて家に帰れるようになったら真っ先に走って帰ったよ。



・・・帰る途中、溺れて死んだ人とかが普通に道に転がってるのはショックだったね。

(もしかしたら父さんや母さんも・・・)

そんな思いの中、僕はまだじゅくじゅくの地面の上を走った。

草履を汚しながらね。



 家に着くと、父さんがものすごく怒った顔で僕を待ち構えていた。

僕を見つけたとたんにゲンコツが飛んできた。

ゴン!

あの時はリアルにタンコブが出来たねぇ。

父さんはタンコブを押さえる僕に対して、

「ほんまに、お前は慌てよって!

ここは水が来ても大丈夫な土地なんや!

それを考えもせんと勝手な行動とりよって・・・。

どれだけ心配したかわかってんのか!」

と叱ったんだ。

 父さんが「大丈夫や」って言ってたのは本当で、

浸水こそしたけど、この家が建ってる所はそこまでヒドイ浸水はしなかったみたいで、

ぜんぜん非難するほどの事は起こらなかったようだったよ。



 
 更に月日は流れてね。

僕は小学六年生になった。

父さんは、当初仮設で家を建てた土地を利用して、商売を始めたんだ。

もちろん元々やってた土木関連の店。

回りではどんどん家が建っていく時代。

毎日が大忙しだったよ。



父さんの凄いのは、その時に雇った人達。

「こまった時はお互い様でっせw」と言って、主戦直後一緒に住まわせてあげた人をそのまま雇ったんだ。

【恩】があるからものすごくよく働いてくれてたみたいだね。

今思えば、きっと父さんは全てを計算した上で、一見無茶なあんな行動をとったんだろうなぁ。



 父さんは人を見抜くのも上手かった。

的確に、その人の長所を生かす場所を提供するんだ。

例えば、字の上手い人間は重い物を持たせずに帳簿をつける専門に配属したりとか。

とにかく皆が力を出せるように心がけていたように見えたね。


 
 ある日、僕と父さんが庭先で碁を打っていた時。

「真一、ここ、近くにバス亭あるから、人が仰山通るなぁw」

って唐突に父さんが言い出したんだ。

僕が(また何か考えてるのかな・・・?)と思っていると、

「よし!w 回転焼き屋をやろう!」

父さんはそう言って碁盤をグチャグチャにしてどこかに走って言った。

・・・僕が優勢だったのに・・・。



1時間もしないうちに父さんはでっかい鉄板を抱えて帰って来た。

「真一w屋台の骨とか屋根はトラックでもうすぐ業者がもってくるわwww

人も雇ってきたで!www

回転焼き屋、今日オープンや!」



父さんの行動力は本当に僕も想像できないような速度だったよ。



それよりなにより驚いたのが、

父さんは回転焼きを焼くのに、若い娘さんを雇ってきたんだよ。

18歳くらいのカワイイ人だったね。



 それが当たった。



バスに乗り降りするのは30〜40代の男の人が多くてね。

父さんはそれを見てたんだね。

そんな客層の人達が通る道に回転焼き屋があって、

オッサンが売る店と、若い女の子が売があったとして、やはり女の子が売ってるほうで買っちゃうだろう。

たった数時間で父さんは全部計算してたんだよね。

あの当事、屋台を女の子に任せてる店なんてまずなかった時代にね・・・。



回転焼きを焼く女の子は【花子ちゃん】て言ってね。

僕より6つ年上の花子ちゃんはいつも僕に微笑みかけてくれたよ。

僕は花子ちゃんが回転焼きを焼いてるのを見るのが好きだったな。



 そんな感じで、父さんはゆとりがあればまた新たな商売を始め、

だんだんと家は裕福になって行ったんだ。

 それと同時に、父さんの女遊びもだんだんハレンチになって行った。

「おう!今日はタエ子のところに行ってくるわ!w」

父さんは母さん以外に、3人ほど女を作ってね。

母さんに行き先を言うくらい堂々と遊んでたよ。

今日はこっち、明日はあっち・・・みたいにね。

母さんも本当は嫌だったんだろうけど、あきらめもあったんだろうね。

特に父さんに文句を言ったりはしなかったよ・・・。





 そんな生活にも、終わりがやってくる。

ある日、役所の人が数人やってきてね。

「あの・・・この家に【百瀬 哲郎】さんは居ますか?」

と聞いてきたんだ。

百瀬哲郎と言うのは父さんの名前でね。

その日父さんは居間で昼寝してたんだけど、

「哲郎は今居てへんでww!」

と言って出て来たんだ。

僕は(なんで居留守使うんだろう・・・)って思ったね。


でも結局バレてね。

住んでる土地丸ごと国に取られちゃったんだ。

なんでかって?

この土地、全部他人の土地だったからだよ。



 思い返してごらんよ。

僕が疎開から帰って来た時・・・父さんが家を建ててた時に言った言葉・・・。


『早く立てたもん勝ちや!w』


・・・きっと父さんは、どさくさに紛れて一等地に家を建てたんだろうね。

いうなれば、【土地を火事場泥棒】したんだろう。

10年ほど過ごしたこの土地も、国に持っていかれてしまい、

残ったのはわずかばかりのお金だけ。

でも父さんはめげなかったね。

また1から、安い土地を買って商売を始めたよ。



【土地】 【人】 【コネ】 【資本】


これらをうまく組み合わせて、どうやれば金になるのか。

どういう方法があるのか。

そのへんを【仕入れる】感覚と【使う】感覚が父さんはズバ抜けてたんだろうね・・・。






新しい木造の家で数ヶ月暮らした後、

僕は就職の為上京する事になった。

別れはやはり寂しくてね。

母さんは泣いていたよ。

でも父さんは絶対に泣かなかった。

男として、父親として、

子供に涙は見せたくなかったんだと思う。



就職して、良い後輩も出来て、僕も歳を取っていった。

会社をリストラされたりもした。



ある日、母さんから手紙が来たんだよ。

『もう、父さんの女遊びに疲れました。母さんと一緒に暮らしてくれませんか?』

僕は母さんを不憫に思ってね。

一緒に住む事にした。

その頃の僕は男ひとつで息子を育てていたからちょうど良かったというのもあるんだけどね。



 父は相変わらず、女を作り、その女に世話をしてもらい暮らしていたらしい。

もちろん商売で稼いだ金を女に貢いでね。



 更に数年が経ったある日、

その女から母さんに手紙が来たんだ。

『哲郎さんがボケてきて大変です。 どうかお引取りお願いできないでしょうか?』

母さんは断った。

「山へでも放り出してください。」と・・・。



 それから数ヶ月もしないうちに、父さんはこの世を去った。

結局、浮気相手の女が最後を看取ってくれたらしい。



 母さんは酷く後悔したようでね。

「なんであんなひどい事言ちゃったんだろう・・・。」って、悔やんでたなぁ。

後を追うように、2ヶ月ほどして母さんもこの世を去ったよ。



 あんなめちゃくちゃな父さんだったけど、

今思えば家族を守ろうと必死だったんだろうね・・・。

本当におもしろい父さんだったよ。

僕は心から父さんにお礼が言えるよ。






 2人は天国でも、幸せに過ごしてるのかなぁ。




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「うう・・・モモマ〜〜〜〜・・・涙で前が見えへんわ・・・。」

なんて良エ話や!

ウチは大号泣してしもうた・・・。

「・・・あ、鍋衣ちゃんゴメンネ。

泣かせるつもりはなかったんだけど・・・辛気臭かったかな?」

ウチは首を横に振る。

「いいや、かまへん、かまへんねんで。

でもな、

家族って、なんや大きい存在やなぁ・・・。



オカン・・・。

うわあああああん。」



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