僕らの目指した甲子園(12)

創作の怖い話 File.171



投稿者 でび一星人 様





ズキン・・


   ズキン・・・。


 家に帰ってホっとしたら、左肩が疼いている事に気づいた。

今までほかの事に気が行ってて麻痺していたんだろう・・・。

 服を脱いで見ると、左肩は真っ赤に腫れ上がっていた。

(これはヤバイな・・・。)

少しでも動かすと激痛が走る・・・。


 明日はタケシ君が所属する【大阪近蔭】と対戦しなきゃならないのに・・・。

僕は1回戦で当たったOL学園の桑太投手にもらった【秘薬】を取り出し、とりあえず右肩に塗った。

(これで治ってくれればいいけど・・・。)

痛みが退くのを祈りながら、僕は床に就いた・・・。


OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO



悪魔は無表情。

ただ、じっと正面を見つめている。

動いても無駄だと悟ったからだ。



しかし少しでも目の前の鍵穴が揺らぐ事があったなら、

その時は容赦なくこの屈辱を・・・

・・・お前らの・・・

もっとも苦しむやり方で・・・。



OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO


――――準決勝当日――――


 タケシ君は元気に球場にやってきた。

「鎌司! ホンマにありがとう。 今日は良いゲームをやろう!」

「・・・こちらこそ・・・。」


球場前で僕とタケシ君は言葉を交わし、それぞれ別のベンチへと歩いていく。

真剣勝負がこれから始まるんだ。

情を挟んではいけない。

ウッディー先生もそう言っていた。

僕は全力で投げるんだ。






・・・この痛みがひかなかった肩で・・・。





「プレイボーグルソン!」

審判の掛け声と共に【大阪近蔭高校】の選手が守備位置に就く。



『1番 ピッチャー 八木君』


「鎌司ぃ! 行くで!」

タケシ君が嬉しそうに笑う。

そして第1球を投げた。


バシィ!


「ストライーク!」


(は・・・速い・・・。)

今まで対戦したどの投手よりも速い・・・。

「どうしたぁ!鎌司!」

タケシ君が僕を挑発する。

「いくぞぉ!鎌司ぃ!」

タケシ君が投げた2球目・・・



カキーーーーン!!!



思いっきり振りぬいた打球は、そのままレフトスタンド最前列に飛び込んだ。


「ほ・・・ホームラン!ホームラン!」

審判が手を回す。


「さすがや、鎌司。」

タケシ君はすがすがしい笑顔で僕を見ている。

僕はダイヤモンドを一周しながら考えた。

本当に、本当に僕がホームランを打ったのか?

打てたのか・・・?

あのタケシ君から・・・


僕が?


「ホームイン!」


親指高校は1点を先制した。

その後は好打者の貝塚君、優真君、四番の下葉が三振で1回の攻撃を終えた。

貝塚君が珍しく目をまん丸にしている。

「・・・速い・・・。 速いだけでなく、スライダーとフォークを混ぜてくる・・・これは厄介ですよ鎌司さん・・・。」

フォークとスライダー?

僕に対しては真っ直ぐしか投げてこなかった・・・。

まさか・・・。



1回のウラ、僕は1.2.3番打者を三者三振に仕留める。

2回のオモテ、タケシ君もうちの5.6.7番を三者三振に斬る。

そして2回のウラ・・・。


タケシ君との対決。

次は僕がピッチャー、タケシ君がバッターとしての対決だ。

「鎌司ぃ! 良え球見せてくれよ!」

タケシ君が嬉しそうに打席に入る。

1球目


バシィ!

「ストライーク!」

「・・・ほぉ・・・鎌司!噂には聞いてたけど凄い球やな!」

タケシ君が嬉しそうに言う。

(まさか・・・まさか・・・)

2球目を高めに投げ込む。


ブンッ!

「ストライクツー!」

タケシ君はそれを空振りした。

そして優しく笑っている。


「・・・タケシ君っ!」

僕は打席に立っているタケシ君に叫んでいた。

「・・・ん?何や鎌司?」

「・・・君は手を抜いている・・・。

僕にはそれが解った。

・・・非常に残念だ・・・。」


「手・・・手なんか抜いてへんわ!何言うねん鎌司!」

・・・おそらく、タケシ君が『手を抜いていない』と言ってるのは本当だろう・・。

おそらく【無意識】に手を抜いてしまっているんだと思う。


 呪いから助けてもらった恩。

保育園、中学で共に過ごした思い出、

色んな感情がタケシ君に影響を与えているんだろう。


それであんなホームランを打たれたのに優しい笑みがこぼれるのだろう。


「タケシ君!君を見損なった!」

3球目。

僕はタケシ君の顔面付近に速球を投げ込んだ。


「う、うわっ!」

寸でのところでタケシ君は避けて倒れこんだ。

「あ、危ないやんけ鎌司!」

「・・・うるさい!お前みたいな平和ボケには、ストライクはもったいないんだよ!」

僕は気が立っていた。

自分の感情がこんなに乱れるのは何年ぶりだろうか・・・。

高1の頃ウチボに対して腹立った事以来ではないだろうか。


 「・・・。」

タケシ君は無言でゆっくりと立ち上がった。

タケシ君の目が変わった。



 4球目

僕はさっき投げたビーンボールの事を反省し、高めに速球を投げ込んだ。

やはり何があろうと危ないボールを投げちゃぁいけない・・・。




カキーーン!


打球は一直線にバックスクリーンに突き刺さった。


「・・・鎌司! オレは本気や! 舐めた事言うてるんとちゃうで!」

タケシ君は怒っている。

そう。

本人は手を抜いているつもりでは無かったからだ。

自覚の無い状態で遠慮をしていた。

だから・・・

本気を出してもらう為には、タケシ君を怒らせる事は避けられなかったのだ。

だからこれで良い。

これで。




 タケシ君がホームを踏み、1-1の同点となった。

「ナイス!雪村!」

「ナイスバッティング!」

大阪近蔭ナインがホームランを打ったタケシ君を祝福している。

(本当に良いチームだな・・・。)

そう思った。

そしてこのチームの中心で輝いているのはタケシ君なのだ。


(次の打席は負けないからね・・・タケシ君・・・。)


 冷静さを取り戻した僕は後続のバッターを三振に取り、この回はタケシ君のホームランによる1点で切り抜けた。

 
 その後も投手戦が続いた。

僕とタケシ君が奪った三振の数はかなりの量になった。

しかし5回を終わった頃、

僕の左肩の痛みは限界に達した。


「ボール!フォア!」

6回のウラ。

僕はフォアボールでいきなり2人のランナーを出してしまった。

ノーアウト1.2塁。


「タイム!」

タイムをかけ、セカンドの貝塚が駆け寄ってくる。

「鎌司さん。見るに見かねます。

昨日の試合で痛めた肩が限界なのでしょう?

あきらかに肩をかばった投げ方になってますよ。」

・・・貝塚君には隠せないな・・・。



→僕らの目指した甲子園(13)



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