僕らの目指した甲子園(11)

創作の怖い話 File.170



投稿者 でび一星人 様





モウロウとする意識の中、ボールを握ったキャッチャーがニヤリと笑う顔が見えた。

・・・思いっきり、僕の頭に【タッチ】したんだろう・・・。


そこで僕の意識は途絶えた・・・。






・・・



・・・



・・・



「・・・ハッ・・・。」

気がつくと、目の前には雲ひとつない青空が広がっていた。

・・・綺麗な空だ・・・。

ふと、あの日僕の大切だった人と見た空を思い出した。

・・・あぁ・・・この空は、あの日の空と同じ空なんだ・・・。

でも、あの日と今では・・・もう時間が違うんだ・・・。

 そんな事を考えているとなんだか泣けて来た。


・・・それにしても・・・ここはどこだ?

僕はゆっくりと起き上がった。

・・・?

僕は野球場の外野で眠っていたようだ。

「・・・あれ?」

周りのメンバーは野球をやっている。

マウンドには・・・優真君が立っている!

僕は慌てて立ち上がった。


「ストライーク!バッターアウト! ゲームセット!」

主審が高々と手を掲げた。

「・・・あ!鎌司さん!」

中田君が起き上がった僕に気づき、駆け寄って来た。

「・・・中田君・・今僕はけっこうパニクッているんだけど・・・一体何がどうなっているの・・・?」

「はははっ。 そうですよね、鎌司さん、今までずっと気失ってましたもんね。

とりあえず何があったかは後で話します。

整列に行きましょう!」


 そう言って皆が整列するホームベース付近に中田君は走って行った。

僕もそれに続く。

そしてその途中、スコアボードを見て驚いた。

―――――――――――――――――――――――――――
        一 二 三 四 五 六 七 八 九  計
薬挫高校: 0  5  0  0  0  0  0  0  0  5
親指高校: 1  3  2  4  3  0  0  1  X  14
―――――――――――――――――――――――――――

「じゅ・・・14対5・・・。」


沢山の謎に包まれたまま、僕は整列し相手チームに礼をした。

その時に一つ発見した事がある。

相手チームのメンバーはやたらと僕らに対して脅えていた。

そしてなぜか傷だらけだった・・・。




 荷物を抱え、通路を通って外に出る。


!!?


外に出ると、薬挫高校の部員が全員整列して総土下座していた。

「ぶ・・・無礼を働きまして、本当に申し訳ございませんでしたぁぁーーーー!」

中田君はそれを見て、

「お前ら、もうこんな野球するんやないぞ。

ほんでお前ら、鎌司さんにちゃんと謝れ!」

と言った。


 薬挫高校部員は次々と僕に頭を下げた。

「・・い、いや、別にそこまで謝られなくても・・・。」

その後も薬挫高校の選手は頭を上げる事は無かった。

そしてなぜか薬挫高校の監督までも土下座していた・・・。



 「やあ!歩!ナイスゲーム!お兄ちゃん感動したよ!」

ウッディーが球場の外壁にロープを垂らし、スルスルと降りてきた。


「兄さん!ありがとう! ナイスゲームだったね!」

ウチボも笑顔でウッディーに答えている。

コイツらきっとバカ兄妹だ。

「・・・。」

姉ちゃんが無言で球場から出てきた。

きっと本来は自分が居るべきである【ハチャメチャポジション】をウッディーに取られたので、妙な不快感を感じているのだろう。






 「・・・ところで中田君、僕が気を失ってる間、一体何があったの・・・?」

帰りの電車の中、ようやく本題を聞く余裕ができた中田君は全てを話してくれた。

「ははは。

実はね、鎌司さん。

鎌司さんがあのキャッチャーの強引なタッチを頭に受けて気を失った後、もう乱闘しか無いと思ってオレと一枝が駆け寄ったんです。

でもそれを察知していたランナーコーチの右本が既に駆けつけていて、オレを制しました。
そして耳元で呟いたんです。

『試合であいつらを殺そう。甲子園も、報復も、両方掴もうでゲス。』って・・・。

とりあえず気を失った鎌司さんを抱えてベンチに戻り、右本はオレたちに作戦を指示してくれました。

まず、この回残りのバッターは打席の1番後ろに立って全員三振する事。

これは怪我をしない為です。

その為、3番の美角から5番の平田までは全員三振して、1回は鎌司さんがホームインした1点しか入りませんでした。

 そして、二回のオモテから右本の作戦が実行されました・・・。

恐ろしい【エロエロ右ちゃんの、復讐大作戦】が・・・。


 二回の守備に着く際、まず守備位置を変更しました。

センターだったオレ(中田)がピッチャー。

センターにはレフトの平田。

レフトには鎌司さんを寝かせました。

審判には右本が上手いこと言ってくれて、

『鎌司さんの秘儀、寝手勝流守備術なんでゲスよ!』

と説得して、鎌司さんの【レフトでおやすみ】は許可されました。


 そして試合再開。

ピッチャーのオレは右本の指示通り、初球をぶつけました。

『ケッケッケ・・・。こんなショボイ球、全然痛くねぇよ・・・。』

相手はそう言って余裕で1塁に走って行きました。

そこからが本当の地獄だとは知らずに・・・。


 次の打者が打席に立った時。

オレは1塁にまず牽制球を投げました。

『ケッケッケ・・・猿真似かよ。

ほとんどリードもとっていないんだから、そんな送球に当たるワケねーだろ・・・』

そう言って1塁ランナーが余裕発言をしようとした時でした。



ゴワシャッ!

ものすごい破壊音が球場を包みました。

ファーストの一枝はチーム1の怪力です。

握力は右が175、左が203です。

その気になれば【握撃】可能かもしれないです。

そんな一枝の【殺人タッチ】を顔面に喰らった1塁ランナーは、フェンスまで吹っ飛んで上半身がフェンスにめり込みました。

 『だいじょうぶか!君!』

オレはわざとらしくそう言い、フェンスからそいつを引っこ抜きました。

そして耳元で、

『オイ、あんまり調子乗っとったらこんなもんで済まへんぞ?』

と脅したんです。

でもそいつはオレを睨みつけて反抗心バリバリでした。

だからおれはもう一回牽制球を投げました。

さすがに二回もフェンスに刺ささると恐怖心を覚えたのか、

『す・・・すいませんでした・・・ 僕は普通に野球をやらせてもらいます・・・。』

と反省しよったんです。

次のバッターも同じように、デドボール → 一枝タッチを施しました。

最初のヤツは根性があったようで、

次のヤツは1回であっさり【反省】しよりましたわ。

その回、打者一巡するまでそれを繰り返しました。

中に一人根性のあるやつが居て、5回もフェンスに刺さりよりましたな。

たしか【天見 龍太郎】って名前でしたね。

でもさすがに5回目で意識を失って代走が出されました。

代走のやつは牽制球投げる前に土下座しよりましたね。

見てるだけでも恐怖だったんでしょう・・・。

選手全員が恐怖に支配されたら後は楽でした。

オレがセンターに戻り、

平田にショートを守ってもらい、

ピッチャーは美角優真に投げてもらいました。

美角いわく、『あいつら、殺人プレー除いたら超下手っスよ野球・・・。』

・・・ってナ具合で、大量点をとりつつその後オレたちは普通に野球をやりました。

もちろん、鎌司さんの打席は右本が

『秘儀・寝ウチでゲスよ!』って審判欺いてましたけどね。

そんな感じで、丁度9回に鎌司さんが目を覚ましたってワケです。

結局相手が下手すぎてボールが外野に飛ぶ事は無かったですけど、

もし鎌司さんの所に飛んだらオレがカバーしようと思ってましたから。」


中田君はそう言うとニッコリ笑った。

「・・・中田君・・・めちゃくちゃな戦法を・・・

でも、ありがとう。

おかげで勝つ事ができた。

それに三回から普通に野球をしてくれたのは、

君達が僕に対して気を使ってくれたって事だろう・・・?」


「え?いやぁ・・・気使うやなんてそんな・・・。

照れるじゃないですか。」

中田君は頭を掻いた。


 結局、

薬挫高校の選手は【一枝タッチ】の破壊力を肌で感じ、

全員一枝の【支配下】になったという事だった。

中田君いわく【姉ちゃんが全国制覇する為の大きな戦力】との事だが、

姉ちゃんはたぶんそんな事する気は無いと思われる・・・。



 今回の試合で解った事は、【毒をもって毒を制す】事も時には必要だという事。

それに、姉ちゃんの【舎弟】と言われるあの三人はまったく違うタイプのヤンキーなんだなと思った。

その後中田に中学時代の話を聞いた所、

足の速い中田は常に先頭に立って部下をひっぱっていくタイプだったらしい。

 怪力一枝はノホホンとしていて、助けを求められた時に出向いてやっていたら、

知らぬ間にいろんなやつに慕われるようになったらしい。

 そして今回も作戦を練ってくれたエロい右本は、

そのこすずるい構想力と鋭い観察力で、

難航不落と言われたあらゆる【軍団】を次々と潰していったらしい。

妙に心理戦に強く、中田いわく、『ある意味1番怖いのは右本。』という事らしい。


とにもかくにも、今日はあの三人のおかげで勝つ事ができた。

本当にありがとう。


【ナベイーズ】



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