僕らの目指した甲子園(9) |
創作の怖い話 File.168 |
投稿者 でび一星人 様 |
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「チース、鍋衣さん、鎌司先輩。」 下葉とそうこう話をしていると、二年の『ナベイーズ』の三人がやってきた。 6番センターの中田(超足が速い) 7番ファーストの一枝(超力が強い) 8番ライト右本(超エロい) この三人はいわゆる問題児で、 それぞれ中学の頃は学校を仕切っていたツワモノ達だ。 そして高校入学と同時に激突。 それを見ていた姉ちゃんが当事パシリに使っていた【モヤシ君】を解放しようとしていたため丁度良いと思い、 三人を力でねじ伏せて舎弟にした。 それ以来姉ちゃんが抑えているが、【封印】を解いたらまたいつ暴れだすか解らない存在達だ。 「鎌司さん。」 中田君が珍しく声をかけてきた。 「・・・どうした?中田君・・・。」 「あ、いや、今日の対戦校、【薬挫高校】でしたよね・・・あそこ、気をつけたほうが良いですよ。」 「・・どういう意味・・・?」 「・・・いや、オレも噂で聞いただけなんですがね、 あそこの野球部は危険らしいんですよ。 なんというか、【ルールに乗っ取った殺人野球】って噂なんですよ。 中学時代のツレがあの高校で、ヤバイって聞いたもんですから・・・。」 ・・・ルールに乗っ取った殺人野球・・・。 「・・・わかった、ありがとう。気をつけるよ・・・。」 僕がお礼を言うと中田君は、 「・・・鎌司さん。・・・オレ、なんだか嫌な予感がするんですよね・・・。 オレの予感、滅多に当たらないんですが、最近よくハズレてるもんですから・・・ そろそろかなって・・・ もし鎌司さんに何かあったら、自分ら飛んで助けに行きますんで。」 中田君の横で、一枝君と右本君も頷いた。 【薬挫高校】・・・一体どんな高校なのだろうか・・・。 球場に着くと、第一試合だったタケシ君の【大阪近蔭】は5回を終わって8-2で勝っていた。 「・・・どうやら、勝ちそうですね。近蔭は。」 貝塚君は呟きながらじっとグラウンドを見ている。 頭の中では次の試合に向けていろいろとイメージしてるんだろう。 マウンドを見ると、タケシ君が元気に投げていた。 貝塚君がそれを見て呟く。 「・・・早いな・・・150くらい出てるんじゃないですか・・・あの雪村ってピッチャー・・・。」 たしかに速い・・・。 もともと体の大きかったタケシ君は、高校に入りさらに体がゴツくなった。 あれは【呪い】なんかじゃなく、普通に速いんだろう・・・。 タケシ君は六回も無難に切り抜けたようだ。 「タケシ!ナイスピッチング!」 「良い調子やな!」 各守備位置からベンチに戻る野手が笑顔でタケシ君の肩を叩く。 4番、エース、主将。 タケシ君はそれに加えて人望も厚いようだ。 中学時代から常に輪の中心になる存在だったが、 そこから更に成長してるんだなと思った。 ベンチに戻るタケシ君は、スタンドの僕に気づいたみたいで、 『ありがとう』 と口を動かした。 僕は笑顔で返した。 タケシ君もニコリと笑い、ベンチに入っていった。 7回ウラあたりで、次に試合をする僕らはスタンドから球場の中へと移動する。 移動する途中、【薬挫高校】のユニフォームを着ている選手たちが立っているのを見つけた。 その横を僕らが通る。 「コラァ!お前、何メンチきっとんじゃぁ?」 「ひぃぃ!」 見ると、モヤシ君が薬挫高校の選手に胸ぐらをつかまれていた。 ・・・これはいけない・・・。 なにか問題が起こって出場停止なんて事になったら大変だ。 僕が止めに入ろうとした時、サっと僕を制して中田君達三人がモヤシ君の元へと歩いていった。 そして中田君はモヤシ君を掴んでいる相手の腕を剥がし、 「なんや?いちゃもん付けてもろたら困るやないか薬挫高校さん。」 と、睨みつけて言った。 相手は掴まれている腕を振り解き、 「あ?・・・ははん。お前ら次ウチと試合する高校か。 ほしたら、ゆるしといたるわ。」 と言った。 三人はものすごい形相で相手を睨みつけている。 そんな視線にも平然とした薬挫高校の選手は、 「オイオイ・・・お前らとは次試合できるやんけ・・・。 そこでたっぷりとヤったるからよ。 ルールの枠内でな。 ペっ!」 とツバを吐き、通路を歩いて行った。 「・・・あのザコ・・・舐めくさりやがって・・・。」 中田君と一枝君の握る拳はわなわなと震えていた。 これはヤバイ。 僕は2人に声をかける。 「・・・まあ・・・落ち着いて・・・。 勝とう・・・勝てばそれでスッキリすると思うから・・・。」 「いや・・・鎌司さん、アイツらそんな生易しいもんじゃぁ無いですよきっと・・・。 一枝、お前ファーストで近いやろ。 もし鎌司さんに危害が加わりそうになったらすぐに助けれるようにしとけや。」 中田君がそう言うと一枝は、 「もちろんでごわす・・・そして、久々においどん達も暴れれるのかもしれんでごわすね・・・。」 と生き生きした目で言った。 ・・・【暴れる】とか勘弁してくれ・・・。 第一試合が終わったようだ。 どうやら10-2でタケシ君の【大阪近蔭】が勝ったようだ。 ゾロゾロと、ベンチから荷物を抱えた選手が通路に出てくる。 その中で頭一つ飛び出た大きなタケシ君。 「・・・タケシ君・・・もう大丈夫になった・・・?」 すれ違い様、僕はタケシ君に声をかけた。 「ん?おお!鎌司。 ああ!おかげさまでな。 ほんまにありがとう。 お前には感謝してもしきれへんで。 ウッディー先生にもな! 今日、勝てよ! 明日お前とやれるのを楽しみにしてるからな!」 僕はゆっくりと頷いた。 本当に楽しみだ・・・。 中学時代、エースで四番で主将のタケシ君を、僕はずっとベンチで見つめていた。 タケシ君はチームにとって特別な存在で、 僕は居てもいなくてもどちらでもいい存在だった。 ・・・そのタケシ君と、今日勝てば対決できる。 ベンチ入りし、グラウンドに出てスタンドを見ると、ウッディー先生の姿があった。 「・・・ウッディー先生・・・。」 僕は迷わず声をかけた。 ウッディー先生は僕に気づき、金網の近くまでやって来てくれた。 「やあ!八木くん! 次試合なんだってね。 タケシ君の様子が気になって来てみたんだけど、最後の1回しか見れなかったよ・・・。 次は君の学校が試合なのかい?」 「・・・ええ、まあ・・・。」 「そうかいそうかい。 先生今日は暇だから、ついでに見て行くよ!」 「・・ありがとうございます・・・。」 なぜか反射的にお礼を言ってしまった。 「ああ!!!ウ、ウッディーやないかぁ!」 姉ちゃんの大声が聞こえた。 どうやらスタンドで寝ていた姉ちゃんが起きて、ウッディーを発見したようだった。 「やあ!鍋衣さんじゃないかベイベ! そういえば、君達双子は同じ高校に進学したんだったね!」 「・・・相変わらず、ウッディー話し方キショイな・・・。」 姉ちゃんのテンションが急激に下がっていた。 声をかけたものの、そのキショい話方が健在だったからだろう。 「・・・何やら外が騒がしいわね・・・。」 ベンチの奥で本を読んでいたウチボがグラウンドに出てきた。 「・・・八木君、あなたのお姉さん、またスタンドで騒いでるの?」 「・・ええ・・・まあ・・・ちょっと中学時代の先生が来られたようで、それに反応して・・・。」 「あら?そうなの?へ〜。 わざわざ卒業生を見に来るなんて、立派な先生じゃない。 どれどれ、少し顔を拝見させていただくわ。」 ・・・まあ、ウッディーが見に来たのは理由があるんだけどね・・・。 ウチボ先生はグラウンドからスタンドを見回し、姉ちゃん達を見つけた時に信じられない事を言った。 「・・・兄さん・・・。」 その一言に対して僕は 「・・・えっ・・・?」 と反応し、ウチボの顔を見た。 ウチボの顔は真っ赤だった。 「・・・歩・・・? お前は歩なのかい!?」 ウッディーは金網にしがみついてウチボ先生を見ている。 ウチボはすぐに顔を伏せた。 「ち、違います。私は歩なんて名前じゃありません。人違いです。」 ・・・ウチボの様子がなんか変だ・・・。 「何言ってんだい!歩! その左の先の毛だけ外に跳ねる癖毛は、歩の証じゃぁないかベイベー!」 「違います! これは強風に煽られているのです!」 ウチボは顔を伏せたまま無理がありすぎる言い訳をしている。 「歩!なんだい?君は野球部の監督なんかしていたのか! 大学を卒業し、 僕は中学教師、君は高校教師になって、 君は【華道部】の顧問になったって言ってたのに、 実は野球部顧問なんてやってたんだね!」 「ち、ちがいます!私は華道部です・・・あ・・・。」 →僕らの目指した甲子園(9) ★→この怖い話を評価する |
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