僕らの目指した甲子園(8)

創作の怖い話 File.167



投稿者 でび一星人 様





「・・・この体の大きい子、【契約】を交わしてもうたみたいなんや・・・。

お前何か良い方法知らんか?」

おしょうがウッディーに言った。

ウッディーは手をアゴの下に当ててしばし考える。

「・・・助かると言うか・・・死なない方法は・・・あるにはある・・・。」


「ほ、本当ですか!!」

タケシ君は卓袱台に手を突き、身を乗り出した。


ウッディーはそんなタケシ君をシビアな目で見ている。

「・・・ただし、雪村君。

これは大変な儀式なんだよ。

普通にやろうと思えば3千万は要る・・・。

君に用意できるのかい?」



「さ・・・三千万・・・。」

タケシ君はまたへたりこんだ。


 そんなやりとりを見ていたおしょうがウッディーに声をかける。

「・・・駆や、そんな大金が要るんかいな?」

ウッディーはおしょうの顔を見て、

「パパ。

仏教徒のパパにはわかんないだろうけど、悪魔を相手にする儀式はそれそうとうの危険が付きまとうんだよ。

それに僕独りでは不可能さ・・・。

そんなに安いものじゃないのさベイベ・・・。」



 「・・・あの・・・。」

僕が口を開く。

「ん?」 「ん?」

2人が同時に振り向いた。

「・・・あの・・・よく状況が把握できないのですが・・・。

仏教徒とか、一体何なんですか・・・?

ウッディー先生は、単なる教師では無いのですか・・・?」

 僕がそう聞くと、おしょうは渋い顔をして、

「・・・鎌司君・・・。

ついでやから話しておこう・・・。

この息子はな、君同様、ものすごく昔から霊感が強かったんや。

そら、ワシは期待したでぇ。

優秀な跡継ぎなワケやからな。

ところがコイツ、教師になりたいと抜かしよった。

・・・でも、まあ経験としてそれもエエかなと思うた。

最終的に継いでくれたらエエワケやからな。


と こ ろ が や。

こいつが研修で行ってたとある田舎町で、


とある神父にお世話になったそうなんや。

それから、何やら西洋の神様崇めるようになってしもて、

十字架を持ち歩くようになってしもたんや。」

「パパ!キリストを悪く言うのは辞めてくれよベイベ!

神の愛の深さを知らないんだよパパは。」

「・・・あ〜ほんまに、どこのどいつかしらんけど、

息子に悪影響与えてしもうて・・・。」

おしょうは顔を伏せた。

「ちょ、ちょっと待ってよパパ!

ヌピエル先生に対して悪影響ってどういう意味なんだよベイベ!

前言撤回してくれ!」

「ワシぁ撤回などせんぞ!

せっかく跡継ぎや思うて楽しみにしとったのに・・・。

写真指名した女がやたらと光でごまかしてた気分や!」


「パパ!風俗のパネル指名に例えるのはやめてよベイベ!」

 壮絶な親子喧嘩が始まろうとしたその時だった。

「・・・あの〜・・・。」


タケシ君が立ち上がった。

ケンカをしようとしていた2人と僕は立ち上がったタケシ君の大きな体を見る。

「・・・あの、オレ、帰ります・・・。

取り返しのつかないところまで来てたって事ですよね。

ホンマ、いろいろとありがとうございました・・・。

ウッディーも、お元気で・・・。」


 タケシ君は深く礼をして、外に出て行こうとした。

「・・・ちょ、ちょっと待ってよタケシ君・・・!」

僕は思わず呼び止めた。

ここで帰してはいけない。

帰してしまったら、もうタケシ君とは会えなくなる。

そう思ったからだ。


 タケシ君は立ち止まってくれた。

僕はバカ親子2人に向かって言う。

「・・・ウッディー先生・・・

先生は、この家を継ぐのを拒んだワケですよね・・・?」

「ん・・・ま、まあそうなるねベイベ・・・。」


「・・・おしょう・・・

おしょうは、跡継ぎを探しているワケですね・・・?」

「ん・・・ま、まあそうなるわな・・・。」


「・・・こういうのはどうでしょう?

タケシ君がこの寺を継ぐという条件で、

ウッディー先生がタケシ君を助けてあげるというのは・・・?」


「な、なぬ?」

三人とも【なぬ?リアクション】をとった。


「・・・おしょう・・・このタケシ君は根性があります。

そして意外と頭も良い。

ぞして丈夫な体を持っています。

正義感も強く、不良でしたが決して弱い者をいじめるような事はしませんでした・・・。

厳しい修行に耐えうる力はあると思います・・・。


ウッディー先生・・・。

もしタケシ君が後を継いでくれれば、

先生は好きな道に進む事ができます・・・。

・・・少なからず、ひっかかったりしてるんじゃないですか・・・?

実家の跡継ぎの事が・・・。


・・・タケシ君・・・。

君も、このままだと死ぬのであれば、

0からやり直す覚悟になれるんじゃない・・・?



・・・どうでしょう・・・お三方・・・。」



「う〜む・・・。」

「ウ〜ム・・・。」

「ウ〜むベイベ・・・。」


三人とも首を傾け、目を閉じて考えている。


そして同時に口を開いた。


ウッディー「パパが良いなら飲むよベイベ・・・。」

おしょう「タケシ君が良いのなら飲もう・・・。」

タケシ「ウッディー先生が良いのならお願いします・・・。」





「・・・じゃぁ、決まりだね・・・。」

僕のその一言に三人はゆっくりと頷いた。





RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR

悪魔は暗い闇の中で悶える。

イラヌコトヲスルナ


イラヌコトヲスルナ・・・。


 契約は絶対・・・。

悪魔は怒りの炎を滾らせる・・・。




RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR




 
 翌朝

僕は日の出前に目が覚めた。

今日は準々決勝だ。

 布団から出ると、さすがにまだ父さんと姉ちゃんは眠っていた。

「・・・昨日のお返しでもするか・・・。」

僕は台所に行き、朝食を作った。

そしてしばらくしてからフルフェイスのヘルメットをかぶり、鍋のフタを持って姉ちゃんを起こしに行った。

「・・・姉ちゃん・・・朝だよ・・・。」

「んぁぁあああああ!!」

姉ちゃんを揺すると、突然奇声を発して僕にチョップしてきた。

フルフェイスのメットがミシミシ音を立てた。

そしてパンチの連打が飛んで来た。

鍋のフタがベコベコに凹んだ。


そして姉は目が覚めたようで・・・。

「・・・ん。鎌司、おはよう。 なんや?朝からその格好は?」

「・・・いや・・・なんでも無いよ・・・それより朝食出来てるよ・・・。」

「ん!おお!メシか! 鎌司サンキュー!」

姉ちゃんは嬉しそうにそう言うと台所へと駆けて行った。



 「・・・タケシ君・・・大丈夫かな・・・。」


 昨日――

あれからタケシ君とウッディー先生は2人でどこかへと出かけて行った。

具体的にどうするかは聞かせてもらえなかったのだが、

ウッディー先生は僕とタケシ君に二つだけ【お願い】をした。

一つは必要以上に恐れない事。

ウッディー先生は『大丈夫だ』と執拗に言っていた。

『怖い』と思う気持が良く無いのだろう。


そしてもう一つは、

準決勝まで勝ち進めば僕とタケシ君は対決する事になる。

その時は全力で勝負してくれとの事だった。

もしタケシ君が僕に対して恩を感じて遠慮等すると悪魔が憑け入る隙が出来るらしい・・・。




 姉ちゃんと僕が学校に着くと、下葉は今日も1番早く来ていた。

「よお!鎌司!鍋衣ちゃんおはよう!」

下葉は元気に手を振っている。

「おお!下葉!風邪治ったんやな?」

姉ちゃんが笑顔で下葉に言った。

「うんうん!おかげさまで。 エラい心配かけたなぁ!

もうこの通りピンピンやで!」

下葉は腕をまくってチカラコブを作って見せた。

顔色もかなり良い。

どうやら本当に風邪は治ったみたいだ。



→僕らの目指した甲子園(9)



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話4]