僕らの目指した甲子園(3)

創作の怖い話 File.162



投稿者 でび一星人 様





あなたのおかげで、今日の試合勝つ事が出来ました・・・。

しかもあんなに活躍させていただいて・・・。」

まず青年はお礼を言った。

床に敷き詰めた模様を描いた紙が、少し光を放ったような気がした。

そして青年は願う。


「次も・・・

次もオレに活躍の場をお与え下さい・・・。

そして甲子園に連れて行って下さい・・・。」


悪魔はニヤリと笑ってその願いを聞き入れる。

青年の命と引き換えに・・・。


 床に置かれた本の表紙には、【デンドロアレチン】の文字が刻まれていた・・・。





EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE



数日後の夜―――



パチリ


「・・・で、また勝ってもうたんかいな。」

「・・・はい・・・。」


師匠との将棋。

師匠は相変わらず不機嫌そうに僕の野球の話を聞く。

だが、不機嫌な中にも、少し嬉しそうな仕草を見せるのがなんだか嬉しかった。






 翌朝。

今日は普段通りに目が覚めた。

ドタドタドタ!

「鎌司ぃ!!!」

姉ちゃんだ。

姉ちゃんの名前は【八木 鍋衣】。

姉ちゃんが寝床から飛び起きて台所まで走ってきた。

「鎌司ぃ! 何やねん昨日は! 球場行ったったのに、既に試合終わってたやんけ!」

「・・・うん、ごめん・・・4回コールドだったからね・・・。」

「何やねんそれ!もっとゆっくり試合してくれや! 朝もオチオチ寝てられへんやないか!」

「・・・いや、朝は起きようよ・・・。」

「まあええわ。今日は一緒に行くさかいにな。」


今日は大阪府予選の三回戦の日。

相手高校は【忍ヶ丘高校】。

あまり聞かない名前だ。

しかし三回戦まで勝ち進む高校。

めちゃくちゃ弱い高校では無いのだろう。


 姉ちゃんと一緒に学校に行くと、今日も貝塚君がポツリと座っていた。

「・・・おはよう、貝塚君・・・。」

「おはようございます、鎌司さん。これ、例のノートです。」

貝塚君は例の【マネージャー】が書いてくれたノートを僕に差し出す。

「・・・ありがとう。助かるよ・・・。」


僕はノートをペラペラとめくる。

「・・・ん?・・・」

そんな僕のリアクションを見て、貝塚君が口を開く。

「そうなんですよ。ノート、真っ白なんです。

どうやら、忍ヶ丘高校は地下練習場があるらしく、

データがほとんどないそうです。

1回戦と2回戦の試合の結果は、

何者かの手によってもみ消されていたようです。

・・・不気味ですね。今日の相手は・・・。」


忍ヶ丘高校・・・

一体どんな高校なのだろうか・・・。



貝塚君とあれこれミーティングをしていると、姉ちゃんが何かを見つけた様子で、

「おい、この袋何や?」

と言って、貝塚君の横に置いてある紙袋を持ち上げた。

「あぁ、それですか。 なにやらさっきスーツを着た男の人が来て、

『校長からの差し入れです。』って言って置いて行ったんですよ。」

袋の中を見ると、まんじゅうが15個ほど入っていた。

姉ちゃんは舌なめずりをして、

「鎌司はいらんやろ?姉ちゃんもったいないから鎌司の分食べたるわ。」

と言ってまんじゅうの包み紙を開け始めた。

「あ、鍋衣さん、僕のも食べて良いですよ。」

貝塚君も姉ちゃんにポツリとそう言った。

「ホンマか!オマエ、良エ奴っちゃな。 ありがとうな!」

姉ちゃんはそう言うとパクパクとまんじゅうを三つたいらげた。

「モグモグ・・お、皆来たみたいやで・・・モグモグ。」

姉ちゃんが指を指す方を見ると、ポチポチと他の部員も学校にやって来ていた。

「さ、今日も皆ガンバリや!」

姉ちゃんは元気にそう言うと空になった紙袋をくしゃくしゃに丸めてポケットに入れた。

「・・・あれ・・・姉ちゃん、アイツらの分のまんじゅうは・・・?」

「え?ま、まあ細かい事は気にすんなや鎌司! がっはっは!」

「・・・いつの間に全部食ったんだよ・・・。」

・・・姉ちゃんはそのうちギャ○曽根と勝負する日が来るに違いない・・・。

本気でそう思った・・・。





 球場に着くと、前の試合が長引いているらしく、まだ2回のオモテだった。

クラブ顧問のウチボがそれを見て、

「・・・まだ、1時間近くはかかりそうね。

暑っついし、

そこのドトーロでコーヒーでも飲んでくるわ。」

と言い残し球場を後にした。


「じゃ、おれらもちょっとヤニ吸ってきます。」

姉ちゃんの舎弟である中田、一枝、右本も一旦球場から出ていった。

「・・・皆、バラけちゃいましたね・・・ じゃあちょっとオレも寝まス。

時間きたら起こしてくださいっス。」

優真はゴロンとスタンドの座席で横になって、顔に帽子を乗っけた。

平田とモヤシは2人で同人誌を読んでいる。

意外な趣味の共通点だ。


 残った僕と貝塚君は共にグラウンドで行われる試合を観察していた。

次にどちらかの勝者とあたるからだ。



 「お、おい、鎌司。」

貝塚君と話しながら試合を見ていると、後ろから姉ちゃんが声をかけてきた。

姉ちゃんはビニール袋を三つ下げていた。

「・・・どうしたの?その荷物・・・。」

「お、おう、これか。

なんかな、さっきスーツのオッサンが来てな。

どうやら高野連の方から弁当が至急されるっちゅー事でな。

これ、部員全員の分もってきてくれてん。」


「・・・そうなんだ・・・高校野球って、けっこうサービス良いんだね・・・。」

「な!ホンマやろ。しかも、これけっこう良い弁当やったで。

めっちゃ美味かったわ。」


「・・・そうなんだ・・・。じゃあ、とりあえず皆を呼んでこなきゃね・・・。」


「あ、鎌司ちょっと待ち!」

「・・・ん・・?」


姉ちゃんは弁当の入ったビニール袋を高々と持ち上げた。


・・・そんなに軽そうという事は・・・もしや姉ちゃん・・・。


「鎌司、なんでお腹って減るんかな・・・。」

「・・・どんだけ食うんだよ姉ちゃん・・・。」


【ナベソネ】の暴挙のため、

空になった弁当箱はゴミバコに捨て、

この弁当が至急された事実は闇に葬られた。



なぜなら軽く揉めるだろうから・・・。



 それから20分ほど貝塚君と試合を観察していると、

「・・・よぉ、鎌司。」

「・・・あ、下葉、おはよう。 風邪は大丈夫・・・?」


朝、少し遅れるから現地に直接行くと連絡があった下葉がやってきた。

・・・だが、どうやら下葉の風邪はよくなっていないようで、

前にもまして顔色は悪くなっている気がする・・・。


下葉は「平気平気・・・。」と呟き、

試合が始まるまでスタンドのベンチに座り、前のめりの状態で目を瞑っていた。

見るからにしんどそうだった・・・。

試合開始―――


 今日の試合、親指高校は先攻。

まず僕がいつもの如くセーフティーバントで出塁する。

・・・そこでまず違和感を覚える。

相手チームの全員が、

なぜか余裕の笑みを浮かべているのだ。


その不気味さを貝塚君も察知したようで、

貝塚君はいつものように粘らず、初球をいきなりセーフティー気味にバントした。

アウトの感じだったが、ボールをとったピッチャーがお手玉。

オールセーフとなった。


忍ヶ丘高校の選手はさほど上手い選手がいるようでは無く、

むしろ下手な選手が多い気がした・・・。



3番の優真君はフォアボールを選ぶ。

ノーアウト満塁。

バッターは四番の下葉。

 下葉は本当にしんどそうで、打席に向かう際にもフラフラな状態だった。



そして下葉に対してピッチャーがゴソゴソやって投げる準備をしている時・・・






「アウト!アウトォ〜〜!!」

1塁塁審が高々と手を上げた。

「え、えぇ〜〜〜〜!??」

優真君が口を大きく開けている。


1塁手がニヤリと笑いグラブを掲げる。

そのグラブの中には白球が・・・。



「か・・隠し玉とかありえんっス・・・。」

優真君はショックを隠しきれない背中を見せ、ベンチに帰っていった。



「忍法隠し球!」



→僕らの目指した甲子園(4)



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