夏に咲く桜(13)

創作の怖い話 File.154



投稿者 でび一星人 様





ベンチに戻りながら、桑太は鎌司に脅威を抱いていた。

(あの八木という選手・・・。 完璧に捉えた・・・。 しかも右方向に・・・。)

鎌司は三回のウラも7.8.9番を連続三球三振に斬って取った。

なんとこれで初回から9者連続三球三振というとんでもない事態だ。

コールド勝ちを期待していたOL学園の応援スタンドはざわめきを隠せない。

「お、おい、コレ、やばいんとちゃうか?」

「まさかこのまま1-0でいってまうんか?」



 そんなスタンドのざわめきを耳にしても、OL学園の監督は堂々と座っている。

(フン。 素人はこれだから困る。

打者が一回りしたこれからが勝負よ。

アイツらはオレが鍛え上げた戦闘集団。

2度目の対決ではその情報を完璧に生かすはずさ。)


 

 投げる桑太も回を増す事に乗ってくる。

4回オモテ。

まず2番の貝塚を12球粘られながらも最後はセカンドゴロに打ち取る。

そして3番の優真はショートフライ。

4番下葉は3球三振と、

まだ誰にもボールを外野まで運ばれていないのだ。


 そして4回ウラ。

攻撃前にOL学園の監督は円陣を組んだ。

「オイ、お前らよ。

ここまで一通り勝負してみて、どうだ?

あの八木というピッチャーの球はそんなに凄いのか?」


2番の竜波が

「はい。 打席に立つのと外から見るのではぜんぜん違います。

なんというか、ボールが浮き上がってくるというか、

150キロくらいな感じを受けるんです。」

と言うと監督は、

「・・・なるほどな・・・。」

と腕を組みしばし考えて、

「・・・こういうのを聞いた事がある。

同じ140キロのスピードボールでも、

投げた瞬間の速さと、キャッチャーに届いた時の速さでは違いがあるんだ。

当然だわな。

投げてから目的地に到着するまでに速度というのは落ちて行くもんだからな。

それぞれ【初速】【終速】と言うんだが、

この初速と終速の差が少ないと、

同じ140キロでも早く感じると言うらしいんだ。」

OL学園の監督はスタンド前方に陣取る【科学班】に、

「おい! お前ら、初速と終速を測定しろ!」

と指示を出した。



 この回の先頭打者は1番の待井から。

バシィ!

バシィ!

バシィ!!

「ストラック!アウト!!!」

高めの球を空振り三振。

これで鎌司は10連続3球三振を奪った事になる。


 待井が引きつった顔でベンチに戻ると、

「オイ?どうだった?」

と、監督が科学班に確認を取っていた。

「ハイ。 今の投球で平均を取りましたが、

初速が131キロ 終速が127キロでした。


ちなみに桑太君の場合、

初速が143 終速が141と、

むしろ桑太君のほうが速いくらいです・・・。」

その科学班の返答を聞きOL学園監督は、


「うむ・・・。 違ったか・・・。

では一体どういう原理なのだろうか・・・。」


と、手をアゴにやった。


バシィ!


  バシィ!!!



鎌司は2番、3番も連続三振に打ち取った。


 3番の服留は、

「こ・・・こんな屈辱初めてだ!」

と怒りをあらわにして悔しがった。


 ここまで12連続3球三振。

一体この記録はどこまで続くのだろうか・・・。


 
 5回オモテ。

桑太も負けじと5.6.7番を三連続3球三振に打ち取った。

「ひょ〜〜〜。 真澄、すげぇな。 今日はめっちゃ球走っとるなぁ〜。」

この試合展開でピリピリムードの中、

4番の清腹だけは普段通り気楽な感じだった。

いや、むしろいつも以上に楽しそうでもあった。



『5回のオモテ OL学園の攻撃は・・・

4番 ファースト 清腹君。』



「わああああああああーーー!」

大歓声に包まれながら、清腹が打席に向かおうとする。


「オイ!清腹!」

「ん?はい?」

OL学園の監督が清腹を呼んだ。

「他の選手も言ってたが、ボールが浮き上がるらしい。 この回はバットを短くもってだな、

ボール何個分か高めを振っていけ・・・」

清腹は監督の話の途中で打席に向かって行った。

「お、おい!清腹!」

「監督!ワシはワシのやり方でやらせてもらいますわ。」

清腹はそれだけ言うとニヤリと笑い、また打席に向かっていった。


「あ、あの野郎、監督になんて態度を・・・!」

九番センターの王村が清腹を睨みながら言う。

監督は無言だった。

無言だったが、四番の清腹に対してこの回は何かをやってくれるという期待を持っていた。


 「八木よ! よろしゅうに!」

清腹はそういうと、打席で大きく構える。



鎌司は表情一つ変えずにゆったりとしたフォームで直球を投げ込む。

ブン!

ズバン!!!


「ストライーク!!」


「ひょ〜〜。 エエ真っ直ぐやなぁ! 血が騒ぐでぇ!」

清腹は初球を豪快に空振りした後、笑顔で鎌司にそう言った。


キャッチャー下葉からの返球を受け取り、鎌司は第2球を投げ込む。

ガシィ!!

「ファール!」




「おお!当たった!」

ベンチのメンバーが一斉に身を乗り出した。



 当の清腹は鎌司を見てニヤリと笑う。

「次はスタンドやでえ。」


構える清腹。

鎌司はゆったりしたモーションから3球目を投げた。



カキーン!!!


「ワアアアアアア!」


大歓声が巻き起こる。


真芯で捉えたボールはレフトスタンドめがけて一直線に飛んでいった。


そしてそのままスタンドに吸い込まれていった。


「チッ。」

舌打ちをする清腹。


「ファール!!!」

審判は大きく両手を掲げていた。


「ひゃぁ〜〜〜た、たすかったぁ〜〜〜。」

スタンドで応援しているOBの吉宗も手に持っているジュースをこぼしながらホっとしていた。




 「八木よ! とうとう捉えたで!

次こそはホームランにしたるさけのぉ!」


 鎌司は無言で表情一つ変えない。

そして4球目を投げ込んだ。


カキーーン!!!


「チィイ!!!」

清腹の舌打ち。


高目のボール球に手を出してしまい、打球は高々とショートに打ち上がった。


「オーライ オーライ!」

ショートの優真が手を上げる。

そしてじりじりと後ろに下がっていく。

しかし打球は意外と伸びていた。

優真は更にじりじりと下がる。

そして落下点に付きボールをキャッチする。


「アウト!!」

審判がアウトコールをした。


そして優真はボールを投げようとして驚いた。

目の前にはセンターの中田が立っていたのだ。

「こ、ここまで伸びたんスか・・・あの打球・・・。」


おそるべし。清腹のパワー。


「八木よ! ツいとったのぉ。 今の球がストライクコースやったら、

間違いのうバックスクリーンやったで。

コントロールミスしてよかったのぉ。

ガハハハハ。」

 そう言うと清腹はベンチへと戻って行った。

 ベンチに戻った清腹はどっかりと腰を降ろす。

チームメイトは誰も声をかけられなかった。

やはり特殊な存在感があるのだ。


「ストライク!アウト!!」

連続三振記録はストップしたが、

鎌司は五番の今丘を三振に斬って取り、ツーアウトとした。

そして六番の桑太はショートゴロに打ち取った。



 OL学園の監督は腕を組み、

(やはり、KKコンビは別格だな・・・。

いち早く八木の速球を捉えつつある・・・。)

と感心していた。

6回オモテ

「ストライク!バッターアウト!!」
「ストライク! アウト!!!」

8.9番を桑太は三球三振に斬って取った。

そして1番の八木鎌司は・・・


コンっ!


またまた絶妙なセーフティーバントを今度は三塁側に転がした。

桑太はすぐさまボールを拾い、倒れこみながら1塁に投げた。


「アウトォ!!」

普通なら悠々アウトだろう。

だが、鎌司の足は恐ろしく速く、間一髪だった。

もし桑太が体勢を立て直して投げていたらセーフのところだった。

(八木鎌司・・・。 とんでもない速球を投げるし、足も恐ろしく速い・・・。

さっきの打席、見事な流し打ちも見せた・・・。

なぜこんな学校に・・・しかもなぜ無名なんだ・・・。)

桑太は鎌司に対してあらゆる謎を感じていた。


六回のウラ。

鎌司は7.8.9番を三球三振に斬ってとる。




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