夏に咲く桜(12)

創作の怖い話 File.153



投稿者 でび一星人 様





ベンチに帰る待井に監督は、

「何してんだ!待井! あっけなく無策で終わりよって。

もう少し粘らないと情報がまったく集めれんだろうが・・・。」

「す、すいません監督・・・。

しかし、あのピッチャー、あんな速球を持ってたとは・・・。」

「・・ん?速球? たしかに速いが、お前はいつもマシンで150キロのボールを打ってるだろうが。」

「そ、そうなんですが・・・今の球、何キロ出てましたか・・・?」

「ん、オイ!科学班! 待井の打席、あのピッチャーの球は何キロだった?」

「ははっ! 1球目が129キロ、2球目が131キロ、3球目が128キロですっ!」


待井は驚く。

「ええっ!?そ、そんなはずはありませんよ! めちゃくちゃ速かったですよ・・・。」





「ストラーイク!バッターアウト!!!」

審判のコールに、待井と監督は反応する。

なんと好打者の2番、竜波が真っ青な顔をしてベンチに引き上げてきた。


 「竜波!お前までがなんという失態だ! 三球三振とは・・・。」

「す・・・スイマセン・・・しかしまさかあんな速球が来るなんて・・・。」

「ん・・・お前まで何言ってるんだ、ここから見てる感じではそんなに凄いとは・・・

科学班!」


「ははっ! 128、131、130 ですっ!」


「ええ!!そ、そんなはずないですよ!!」

竜波がそう言っていると、




「ストラーイク!バッターアウトォ!!!チェンジ!」

三番の服留が打席で呆然と立ち尽くしていた。

なんと鎌司は初回、OL学園の好打者三人を全て三球三振で討ち取ったのだ。

ベンチでやりとりをしている監督たちに、桑太が静かに話す。

「・・・どうやら、あの八木というピッチャーの真っ直ぐには秘密があるようですね・・・。

きっと打席に立たないとわからない何かがあるんでしょう・・・。

とりあえず、切り替えてこの回しっかり抑えましょう。」

そう言って桑太はマウンドに向かって行った。


 監督は、

「・・・さすがだな。アイツは。

さすがウチのエースだ。

常に状況を冷静に見て切り替えられる鋼の精神力を持っている・・・。

オイ!お前らも早く守備につけ!」


「はいっ!」

「はいっ!!!」



「ストライク!バッターアウト!」

「ストライク!バッターアウト!」

「ストライク!バッターアウト!」


5.6.7番と、

桑太は連続三振を取り、二回オモテ、親指高校の攻撃を難なく片付けた。


 そして二回のウラ。

スタンドの歓声がひときわ大きくなる。


『四番 ファースト 清腹君』




「ワアアアアアアーー!!!」

大歓声と共に、KKコンビの一人、四番の清腹が右打席に入った。


 「兄ちゃん!よろしゅうにな!」

清腹は鎌司に挨拶をする。

鎌司も一礼する。


 大きく構える清腹に、鎌司は第1球を投げた。


 清腹は豪快にフルスイングをする。

ブルン!

バシィ!!!


「ストラーイク!」

高めの速球を豪快に空振りした清腹は、

「うひょぉぉぉお。 兄ちゃん、えげつない真っ直ぐ放りよるなぁ! 気に入ったで! 勝負や!」

と、ものすごく嬉しそうな顔をしている。




 一方そのころ、OL学園ベンチでは、

「か、監督!良いんですか? 清腹のやつ、じっくりボールを見ていく作戦なのに、

あんなに自分勝手にフルスイングなんてしやがって・・・。」

と、他の部員が困った顔をしてクレームをつけていた。


「・・・アイツはあれで良いんだよ・・・。」

監督は堂々と答える。

「・・・え・・・?」

「アイツは4番だ。4番は特別なんだよ。

アレでいい。

もしここでチームプレーをするような選手なら、オレはアイツを4番になんかしちゃいねぇよ。

好き勝手やって、それが自然とチームの流れを作ってしまう。

それが四番ってもんだろうが。」

「・・・は、はぁ・・・。」



 ブルン!


「ストライク、ツー!!!」


「ええなぁ〜〜 シビレるで!お前の真っ直ぐ!

もういっちょ来いやぁ!」


 鎌司はキャッチャーの返球を受け取り、ゆったりとしたモーションから3球目を高めに投げ込んだ。


カスッ バシィ!!!


「ストライーク!バッターアウト!!!」

フルスイングした清腹のバットをかすめ、ボールは下葉のミットへと吸い込まれた。

 三振した清腹は、「・・・この打席は負けや!」

と、なぜか嬉しそうな顔でベンチへと戻って行った。


 続く5番、今丘も3球三振。

これで初回から5者連続3球三振となった。


『六番 ピッチャー 桑太君』


「ワアアア!」

4番の清腹ほどではないが、

大きな歓声が鳴り響く。

六番の桑太が右打席に入る。


 1
1球目

バシィ!


「ストラーイク!」

高め速球を桑太は見送った。

(・・・確かに、皆が言っている通り速い・・・。本当にこれが130キロのボールなのか?)

桑太はバットを極端に短く持ち直した。


ベンチからそれを見る監督は、

「さすが桑太だ・・・。常に冷静な男よ。」

と、悠々とベンチに腰かけていた。


 鎌司は第2球を桑太に投げる。

ガシィ!

ガシャーン!

「ファール!」

(・・・当てる事はできたな・・・。 予想よりボール二つ分上を振ったのに、なんて速球だ・・・。)

桑太は更にバットを短く持ち直す。

鎌司はふりかぶり、ゆったりとしたモーションから第3球を投げた。


 ブンっ!!

バシィ!!!

桑太のバットは空を切った。

「ストライク! バッターアウトォ!!! チェンジ!」


ベンチに帰った桑太に監督が言った。

「珍しいな。お前がボール球に手を出すなんてな・・・。」

桑太は少しピクっとして、

「ボール球?・・・何球目ですか?」

と聞いた。

「ん・・・。最後の球、明らかな高めのボール球だったじゃないか。

何言ってるんだ?」

(最後の球がボール球・・・。ストライクだと思ったが・・・。)


 三回の表、桑太は8番、9番を簡単に切って取った。

そして・・・


『1番 ピッチャー 八木君』

鎌司との二度目の対決がやってきた。

ゆっくりと鎌司が右打席に入る。


(今更だが・・・この八木という選手、左投げ右打ちか・・・。珍しいな。)

桑太はゆっくりとふりかぶり投げる。

バシッ バシッ!

ストライクツー!


簡単にツーストライクを取った。

3球目はボール。

そして4球目。


カキーン!!


バシィ!!!

1塁線を破ろうかという鋭い当たり。

それをファースト清腹がダイビングキャッチした。

「お〜イテテテテ。 真澄〜! しっかり抑えてくれよ〜 がはは。」

清腹は笑いながらマウンドまで歩いていき、ボールを置いた。



→夏に咲く桜(13)へ



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話3]