夏に咲く桜(8)

創作の怖い話 File.149



投稿者 でび一星人 様





数日後の職員会議・・・。

穴熊が突然こんな事を発表した。

「教師の皆さん!お知らせがあります!

私、穴熊は、今日限りで野球部の顧問を辞めさせていただきたく思います!

今までありがとうございました!」


ザワザワ・・

   ザワザワ・・・


唐突な発表に、職員室はざわめく。


 そしてすかさず理事長が口を開く。

「おやおやぁ〜。

という事は、野球部の顧問は居なくなるという事ですなぁ〜。

困りましたなぁ。

顧問が居ない部は、廃部という形をとらねばなりませんなぁ。」



 「ちょっと待ってください!」

ざわめく職員の中、若手体育教師、【熱村 血男】が挙手して立ち上がった。

「理事長!自分、頑張っている野球部の生徒がそれではあまりに可哀想と思うでありますっ!

自分が顧問になるでありますっ!

それで存続させてあげれるでありますかっ!!!」


理事長と穴熊が目を見合わせ、ニヤリと笑う。

「・・・構いませんよ。熱村先生。

・・・しかし、野球部には問題児の三人が居ます。

【ナベイーズ】と呼ばれるあの三人がね・・・。

それに、八木鍋衣もよく顔を出しているようです。

もし彼らが問題を起こしたら・・・。

その時はアナタの首が・・・

『ボンっ』ですよ・・・。」


熱村はピンと上げていた手をシュッと降ろした。

「自分!お腹が痛くなったのでやはり辞めておくでありますっ!」


(クックック・・・。)

理事長は心の中で勝利の笑みを浮かべた。


 ガタッ!

その時ウチボが席を立った。

「先生方!本当に誰も顧問になろうとはしないんですか?

野球部が・・・一生懸命夏の大会に向けてがんばってる生徒たちの野球部が、

廃部になっちゃうんですよ?

それでもいいんですか?」



「・・・ウチボ君・・・。

所詮部活なんだよ・・・。

君がいくらキレイ事を言っても、

結局皆自分が大事なんだよ。」

数学教師の【佐印小 左院】がメガネをクイっとやって言った。


「そうだそうだ!」

周りの教師も次々とウチボに対して反論しだした。

ウチボは半泣きになった。


窮鼠、猫を噛む。

ウチボは机をバンッ!と叩いた。

「わかりました! 皆さんがそこまでヘタレだとは思いませんでした!

良いでしょう!私が野球部の顧問をやります!

これで問題は無いですね?」


理事長と穴熊は目をチラチラ見合わせている。

予想外の事態なのだろう。

「う・・・内場君・・・。

ほ・・・本当にやるのかね・・・?

もし何か問題があったら、即クビだよ?クービ!」

理事長が目をまんまるにして言った。

「ええ!やってやりますとも!

生徒が頑張っているんです!

教師がぬるま湯に浸かっていて生徒に何が伝わるというんですか!」


「く・・・

君がそこまで言うのならそれで良いだろう!

・・・しかし、この職員会議で、今の君の態度はちと問題だな・・・。

ペナルティを与える。」

「・・・ペナルティ?」

「ああ。ペナルティだ。 野球部が夏の大会で負けたら、

その時点で君も辞表を書いてもらおう。

どうだね? そのくらいの覚悟があるのかね?」

「・・・あなたの心は、本当腐っているんですね・・・。」

「腐っている?フフ。君はその腐っている理事長の下で働く駒なんだよ?駒。」

「・・・わかりました・・・。

今すぐにでもこんな学校辞めてやりたいくらいですが、

野球部の生徒たちが可哀想です・・・。

その条件、飲みましょう。

野球部が負けたら、

私もこの学校を辞めます。

・・・失礼します。」

ウチボはそう言い遺すと、職員室の扉を開いて出て行った。

校長と穴熊は再度目を見合わせる。

そしてお互い瞬きを繰り返す。

どうやら、瞬きをモールス信号代わりに使い、会話をしているようだ。


<スコシ ケイサン チガイ ガ アッタ ガ マア イイダロウ>

<サスガ リジチョウ リンキオウヘン デスネ>





 職員会議場を後にし、ウチボは廊下を歩きながら額の辺りに手を当てていた。

(はぁ・・・。

なんでこんな展開になちゃったんだろ・・・。)

ウチボは勢いもあってとんでもない事をしてしまったと思いつつも、

間違った事はしていないから後悔はしていなかった。


「・・・先生・・・。」

「・・・あ、八木君。」


 前から鎌司が歩いて来ていた。

「・・・内場先生・・・この間はアルバイト、ありがとうございました・・・。

先生は関係ないのに、野球部を助けていただいて・・・。」

「・・あぁ。あの事。

別にいいのよ。困った事はお互い様よ。

あの理事長、ムカつくしね・・・。」


「・・・そんな事言って良いんですか・・・。」

「いいのいいの。 今も職員会議で腹たったところよ。」

「・・・はぁ・・・。」

「あ、それとね、野球部の事、関係あるようになっちゃった。

今日から私が野球部の顧問よ。よろしくね。」

「・・・え・・・?」

「まあ、細かい事は気にしなくてヨロシ。

君たちは一生懸命青春すれば良いから。

あ、ちなみに私、全然野球わからんないから、八木君が采配とかやってね。

任せるわよ。

なんてったって、私野球と言ったら【カズ】と【ラモス】くらいしかわかんないのよ。」

「・・・先生それ、古い以前にもはや野球でも無いかと・・・。」

「とりあえずよろしくね!

監督業務は八木君。キャプテンは下葉君。

看板娘は私と、この布陣で夏の大会がんばりましょう!」

「・・・はい・・・。」


 ウチボは鎌司の肩をポンっと叩くと、職員ロッカーの方へと歩いていった・・・。





 「ええ!?鎌司、それホンマか? じゃあこれからはあのクソ穴熊じゃなく、

ウチボが顧問って事?」

 放課後のグラウンド。

下葉と鎌司が話をしている。


「・・・らしいよ・・・。さっきウチボ本人が言ってたから・・・。」

「へぇ〜〜〜。まあ、あのクソ穴熊よりぜんぜん良いやん。

それに鎌司が采配ならオレも安心やわ。

オーダーはもう決まってるんか?」

「・・・うん・・・。まあ。

一応決めてみたけど・・・。」

「おお! 教えてや!」

鎌司はポケットからオーダーを書いた紙を下葉に差し出した。

鎌司はポケットからオーダーを書いた紙を取り出し、下葉に差し出した。


【 1番 ピッチャー  八木 鎌司

  2番 セカンド   貝塚 マモル

  3番 ショート   美角 優真

  4番 キャッチャー 下葉 みつお

  5番 レフト    平田 凡人

  6番 センター   中田 九

  7番 ファースト  一枝 七郎

  8番 ライト    右本 新八

  9番 サード    綿 保  】




「・・・あの、

鎌司が考えたから、いろいろ深い意味はあるんやろうけどさ、

多々疑問があるから質問していい?」

「・・・どうぞ・・・。」

「まず鎌司、1番でピッチャーはしんどくない?」

「・・・僕の体力はたぶん大丈夫・・・。」

「あ、そうやったな。 鎌司はアホみたいに走りこんでるから、持久力は陸上部以上やったな・・・。

で、次やけど、 オレより優真のほうが絶対にバッティング良いと思うけど・・・。

オレが四番で良えん・・・?」

「・・・下葉はキャプテンだ・・・。精神的な支柱で居て欲しいんだよ・・・。

優真はムードメーカー的な部分もある。

だから初回に必ず打席が回ってくる3番が良いと思うんだ。」

「な、なるほど・・・。

じゃあさ、俊足の中田が6番で、1番の飛距離を誇る一枝が7番って所は?」

「中田は足は速いけど、打ち方がめちゃくぢゃだし。バントも下手・・・。

だから万が一塁に出たら下位打線で点が取れるように下位のトップに置いた・・・。

一枝も、真っ直ぐが来たらものすごく飛ばす力があるけど、



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