夏に咲く桜(5)

創作の怖い話 File.146



投稿者 でび一星人 様





理事長は穴熊に問う。

「穴熊君!顧問として、どうだね?野球部はこれからも存続して良いと思うかね?

今回の責任を背負って、君は顧問を続けられるかね?」


穴熊は背筋を伸ばした。

「ははっ!理事長のおっしゃる通りでゴザイマス!

即刻、廃部で責任を取らせて頂たく思いますっ!」


「な、何やと!このクソ監督がぁ!」

下葉が穴熊に対して殴りかかろうとした。

そんな下葉を鎌司はとっさに後ろから押さえつける。

「・・・やめろ・・・下葉、今ここで教師に暴力奮っちゃ全部終わる・・・。」

「はぁ。はぁ。・・そ、そうやな・・・スマン鎌司・・・。」

下葉は少し落ち着いた。


下葉は、昔からこの野球部顧問の穴熊の事が好きではなかった。

練習に顔を出さない。

無気力。

定時には家に帰る。

本当に名前だけの顧問だった。

そして陰では、『めんどくさいから野球部、早く潰れたらいいのに・・・。』

とよく言っているらしかった。

1年から鎌司と共に一生懸命野球に青春を注ぎ込んで来た下場にとって、

そんな穴熊の事を好きになれと言うほうが無理なのかもしれない。


「見、見ましたか?理事長! 今のこの下場の態度!

廃部にしましょう!廃部に!」

穴熊はここぞとばかりに理事長にアピールする。

「フッフッフ。

非常に物分りがいいねぇ。顧問の先生は・・・。

と、言うことだよ。シンガリボーイにゲルマンボーイ。

野球部は廃部だ!廃部!

大体がだね、少年たち。

迷惑をかけたら、それ相当の責任を取る。

世の中の常識なのだよ!常識!


ハッハッハッハッハー!」


「・・・責任・・・ですね・・・。」

鎌司がゆっくりと理事長に近付く。

「・・・今理事長、責任って言いましたね・・・。それ相当の・・・。」


「ん・・・あ、あぁ。言ったよ。責任ね。

取ってもらおうかね!

はっはっは。」


「・・・迷惑をかけたら、それ相当の責任を取る・・・。

それで良いわけですよね・・・。」


「おうおう。物分りが良いボーイだ。

はっはっは!」


下葉があわてて鎌司を掴み言う。

「か、鎌司!何言うてるねん! お前まで・・・。」

鎌司は下場の両肩を掴み、しずかに頷いて引き離す。

そして理事長の方を向き、

「・・・理事長のおっしゃる通りです・・・。

責任を取りましょう・・・。それで納得ですよね・・・?」


「あ・・あぁ。納得する。約束しよう。」

「・・・わかりました。 その壷、いくらでしょう?」

「・・・ん。50万だ。」

「・・・なるほど、わかりました。

では、50万+迷惑料10万。

あわせて60万円、弁償しましょう。

それでいいですね?」


「は・・はぁ?何言っとるんだ君は!?」

「・・・理事長はさっき、迷惑をかけたら『それ相当』の責任を取る、それで納得するっておっしゃいましたよね・・・。

何も野球部を廃部したからといって責任が取れるとは思いません。

理事長が被った損害を賠償する事こそ責任をとる行為になるのではないでしょうか・・・。」


理事長と穴熊はポカンと口をあけている。

そんな空気を読み、ウチボが詰まりながら口を開く。

「そ・・・そうよね。たしかにそうだわ! 

責任を取るのに、辞める必要なんて無いですよね!

それなりの損害を賠償して、謝罪する事こそ本筋の責任の取り方だと私も思いますわ!」

「な・・なにを・・・。」

「・・・理事長、理事長がさっきおっしゃいましたよね・・・。

『迷惑をかけたら、それ相当の責任を取る。それで良い』って・・・。

『それで良い』というのは、嘘なのですか・・・?」


「ぐ・・・。」

「・・・では、なるべく早くお金はお持ちします。

本当に今回はスイマセンでした・・・。」

鎌司は深々と頭を下げ、理事長室を後にした。

「す、スイマセンデシタ。」

下葉もそれに合わせるように一礼し、理事長室を後にした。

「で、では・・・。」

ウチボもなんだか気まずくなり、理事長室を後にした・・・。



 理事長室に残された理事長と穴熊。

「ぐ・・・あの八木という少年・・・。

噂には聞いていたが、なかなかのキレ者だな・・・穴熊君・・・。」


「は・・はい・・・。 く・・・。今回こそは、野球部を抹殺できると思いましたが・・・。」

「フフ。案ずるな、穴熊君。 所詮はアイツら高校生。

60万なんて大金、そう簡単に集めれるもんでは無いわ。

ものの弾みで言ったんじゃろうて。

はーーっはっはっはっはっはー!」

「そ、そうですよね!理事長!

はーーーーっはっはっはっはっは・・がはっつ。ごふぁっ!」


理事長と穴熊の高笑いは廊下まで響いていた。




 廊下を歩き、教室に向かう鎌司と下葉、それにウチボ。

「八木君・・・大丈夫なの?あんな約束なんかして・・・。60万なんて用意できるの・・・?」

ウチボが心配そうに鎌司に聞く。

「・・・アテは無いですね・・・。」

鎌司がしれっと言う。

「え・・ええ!今何て言った??君は何のアテも無いのにああいう約束しちゃったって言うの??」

「・・・まあ・・・。」

「呆れたわ・・・。」

「・・・でも、多分あそこではあのくらいのリスクを背負わないと、廃部になっていましたよ・・・。 

相手が50と言ったら少し多い60くらいを持ち出さないとね・・・。」

それを聞いていた下葉が頷く。

「な、なるほど。たしかに・・・。

50万払いますって言うたら、おそらく慰謝料とかそういう名目で、

さらにいくら上乗せしてくるかわらんもんな・・・。

相手にそれを考える時間も与えてまう。

やっぱ鎌司はスゲェな・・・。」

「・・・。」

ウチボも頷きかけたが、

「・・・で、どうやって用意するの?・・・60万・・・。」

「・・・ん・・・。」

さすがに鎌司もすぐには発想が出てこなかった。

何せ今までお金稼ぎというものをしたことが無い。

そんな感じで無言の鎌司とウチボに下葉が言う。

「と、とりあえずさ、オレたち皆で何かアルバイトやろうや!

コツコツ稼いで、払おう!

ほら、皆で今6人おるやろ?

一人頭10万で・・・。

10万・・・けっこうな額やな・・・。はぁ・・・。」

下葉のため息が寂しく漏れた。



「・・・仕方ないわね・・・。」

ウチボが呟いた。

「え・・・。ウチボ先生、何か良い案でもあるんすか?」

下葉がわらにもすがる眼差しでウチボをガン見しながら言った。

「ええ。あるわよ。 とりあえず、今日の放課後野球部の皆を集めてちょうだい。」

静かにそう言うウチボに、鎌司が

「・・・何か良からぬ事でもするんですか・・・?」

と聞くと、

「安心して。フフ。 法の枠内だから。」

と、ウチボは不適な笑みを浮かべていた。



→夏に咲く桜(6)へ



★→この怖い話を評価する



[怖い話]


[創作の怖い話3]