黒い影(13)

創作の怖い話 File.135



投稿者 でび一星人 様





『誰だろう・・・。知らない番号からいっぱい着信入ってる・・・。』
 
と言っていた・・・。

僕が先輩に渡してしまった紙はもしや・・・。



 深く考えても仕方ないので、とりあえず僕は適当にその場から抜け出して寝た。

明日の練習の時、先輩には謝ろう・・・。






 「・・・鎌司よぉ・・・。」

朝の練習・・・。

吉宗さんは超不機嫌だ・・・。


「・・・お、おはようございます・・・。」

ゆっくり近付いてくる先輩。

「お前・・コレ何やねん・・。」

先輩はいつになく冷酷な口調でそう言うと、広げた紙を僕に見せた。


紙には、




【南こうせつ】



「・・・そっちかぁ〜〜・・・!」


・・・僕はキャラにあるまじき珍しく叫んでしまった・・・。


「そっちかぁ〜 とちゃうわ!ボケ!こっちは必死に人数揃えてんぞ!!!」


・・・その日、

先輩はものすごく不機嫌で、なのにものすごく快音を響かせていた。

そして吉宗さんが打つノックに僕も強制参加させられて、

なぜか僕にだけやたらと強くて際どいノックの雨を浴びせられた・・・。


 ノックが終わった頃には、先輩も少しスッキリしたようで、

この件は許してもらえたようだ・・・。

 帰りに、今度は間違いなく姉ちゃんの電話番号を書いた紙を渡すと、

先輩はノックの事を謝り倒してジュースをおごってくれた・・・。



 部活が終わり、家に帰る途中に公衆電話から氷室さんの携帯に電話をかけた。

今日は良い天気だから公園に行こうという事になった。

家に一旦帰り、シャワーを浴びて着替える。

姉ちゃんはまだ少し不機嫌そうだった。

 なんというか、

寝顔の眉間にシワが寄っていた。

こういう時の姉ちゃんは【すこぶる不機嫌】なのだ。



 待ち合わせの場所に行くと、すでに氷室さんはベンチに座っていた。

・・・昨日も、かなり早く待ち合わせ場所に来ていたみたいだが、

もしかしたらこういう待ち合わせにはものすごく早く来るタイプなのだろうか・・・。


「あ、八木君。こんにちは。」

氷室さんは昨日と同じようにコンタクトレンズをしているようだ。

・・・そして、氷室さんの横には大きな【黒い影】・・・。

「・・・こんにちは・・・。」

僕も挨拶をし、そのベンチに座ったまま少し会話をしたのだが、

氷室さんの横にある影が気になって仕方なかった。


『寿命っちゅーのは、誰しもが持ってるもんでな。』


昨日のおしょうの言葉が頭を過ぎる・・・。




 
 「・・・八木君。ねえ!八木君!」

はっとした。

「ねえ。八木君。聞いてるの?」

「・・・あ、ゴメン・・・。」

黒い影や、昨日のおしょうに聞いた話を考えてぼーっとしてしまっていた。

「今日どうしたの?八木君。 なんかココロココニアラズって感じだよ?」

「・・・い、いや。何でもないよ・・・。ごめん。」

「そう・・・。ならいいけど・・・。 私と居るのが、もしかして楽しくないとか?」

「・・・いや。そんな事ないけど・・・。」

「そう・・・。」



 氷室さんはその後、黙ってしまった。

しばし沈黙しながら公園にある噴水を眺めていると、



「ねぇ。八木君。」

氷室さんが意を決したような口調で僕に声をかけた。

「・・・何・・・?」

「あ、あのね。八木君。

八木君って・・・さ、

最近よく私に電話くれたり会ってくれたりするよね。」


「・・・うん・・・。」


「そ、それってさ、どうなのかな。」

「・・・どうっていうと・・・?」

「ん・・・だから、その・・・。 私の事をどう思ってるのかな・・・って。」



 氷室さんの事をどう思っているか・・・。

どう思っているんだろう・・・。

ただ単に、一緒に居たいというのが本音だろうか。

一緒にいると落ち着くし、

一緒に居たいという気持ちがある。

一緒に居て、気持ちが嬉しくもなったりする。


・・・でも、こんな事を全て話せるかというとキャラ的に無理だ・・・。

「・・・氷室さんは・・・。大切な友達だよ・・・。」

「友達・・・か・・・。 それだけ?」


氷室さんが顔を覗き込んで聞いた。

僕は、少し間を開けて、


「・・・うん。友達だよ。 氷室さんは、大切な友達・・・。」

と答えた。

「・・・そう・・・。」

氷室さんは少し寂しい目をして、僕から身を離した。

なぜか僕はそんな氷室さんを見ていると、ものすごく切ない気持になった。


 寂しそうな顔をした氷室さんは、ゆっくりと立ち上がり、僕にこう言った。

「・・八木君。ゴメン。今日帰るよ。」

「・・え・・・。何で・・・。」

「・・・別に・・・。少し用事を思い出しちゃったから。」

氷室さんはそう言って、ベンチに座る僕を置いて家の方へと歩いて行った。

そして数歩進んで立ち止まると、こっちを向いて

「・・・八木君。もう、私たち、会わないでおこう・・・。」

「・・・じゃぁね。」

氷室さんの後姿がとても悲しかった。

 そしてまた、その氷室さんにつきまとう黒い影も、昨日より濃くなっているような気がした。


 
 家に帰り、布団に横たわった。

・・・なぜだろう・・・。

何もする気が起きない。

胸の辺りが重たい・・・。

『・・・八木君。もう、私たち、会わないでおこう・・・。』


氷室さん・・・。


会わないで・・・おこう・・・。


 僕は、あの時どう言えばよかったんだろうか・・・。

自分の気持・・・。

ありのままに伝えていない・・・。

でも・・・。

僕はどうしたら・・・。


 色んな事が頭の中をループした。

考えても考えても、答えは出てこなかった・・・。


 その日、電話があり、那覇村先生の風邪が悪化したので将棋は中止になった。

僕は答えの出ない事を無駄に考え続けていた・・・。




 翌朝。

今日の部活の練習は昼からなので、とりあえず朝起きてテレビを見た。



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