黒い影(10)

創作の怖い話 File.132



投稿者 でび一星人 様





「行く行く!! ご馳走のあるところ、鍋衣アリやで!」


・・・意味が解らない・・・が、良かった。

「よっしゃぁ!ほんじゃぁ、さっそく友達に連絡せんとな!」

姉ちゃんはそういうと、ポケットから携帯電話を取り出した。

「・・・あれ・・・。姉ちゃん、携帯なんて持ってたっけ・・・?」

「フッフッフ。 甘いね。鎌司君。 今時の高校生、携帯電話くらい持ってて当たり前だよ!」

「・・・なんだよその喋り方とセリフ・・・。」

「いや、実はな、こないだモヤシについてきてもろうて、買ったんやわ。携帯。」

「・・・そんなお金、どこにあったの・・・。」

「フッフッフ。実はウチ、バイトを始めたんや!」

「・・・姉ちゃんがバイト・・・。」

「おう!これでもレジとか打ってるんやで! よく操作ミスして北海道に送る宅急便を沖縄とかに送ってまうんやけどな!」

「・・・重罪じゃないか・・・。」


「まあ、とりあえずありがとうや鎌司! で、夕方にどこに行けば良いんや?」



・・・あ・・・。場所聞くのを忘れていた・・・。

「・・・とりあえず、細かい事は本人から聞いたらいいよ。 姉ちゃんの電話番号僕に教えといて。

明日の練習の時に先輩に伝えて、姉ちゃんに電話するように言っとくから。」


「そかそか。ほな、よろしく頼むわな! えっと・・・ウチの番号はな・・・」


姉ちゃんから教えてもらった番号をメモり、僕は疲れた体を休める為横になった。


・・・

・・・

・・・


・・・なぜだろう・・・。

落ち着かない。

頭の中を、氷室さんが過ぎる・・・。



僕は起き上がった。


将棋は、師匠が暇になる夕方から。



・・・僕はサイフを机から取り出し、氷室さんからもらった携帯の番号が書かれた紙を取り出す。

そして居間に行き、電話をかけた。


プル・・

プルルルルル・・・。

ガチャッ。

『・・・はい?』

氷室さんが出た。

「・・あ、もしもし。八木ですけど・・・。」

『え?あぁ!八木君! どうしたの?』

「ん・・・。いや、今、何してるのかなって・・・。」

『え?今?家で本読んでるけど。 あ、もしかして八木君暇なの?家来る?』


 僕は私服に着替え、二度寝している姉ちゃんを一人家に置いて氷室さんの家に向かった。

長い長い氷室家の壁をつたい、大きな門の前にたどり着くと、表で氷室さんが待っていてくれた。


「やあ。八木君。早かったね。」

そう答える氷室さんの笑顔はなんだか僕の心にゆとりを与えてくれた。


氷室さんの部屋で、昨日のように音楽を聞き、当たり障りの無い話をした。


氷室さんのお母さんは、またいろいろとおやつを持って来てくれた。


「そうだ。八木君、 オススメの本があるんだけど読んでみる?」

氷室さんは何千冊とある分厚い本の中から5つくらいを取り出し、僕の目の前に置いた。

「その本、貸してあげるよ。 私の好きな本なんだ。」

氷室さんはそう言ったが、僕は家で本を読む暇があまりない。

「・・・今、少し読んでもいい?」

そう聞くと、

「どうぞどうぞ。」

と氷室さんは両手を差し出すようなポーズをとった。




―――1時間後―――


僕は5冊の本を読み終え、「・・・ありがとう・・・。」と言って本を返した。


「や・・・八木君、それはネタ?」

「・・・何が・・?」


どうやら、僕が本を読んだフリをしたと思っているらしい。

「・・・じゃあ、内容を質問してみたらどう・・・。」

そう言うと、氷室さんはいくつか質問をしてきた。

僕は本を読んだまま答えた。


「せ・・・正解・・・。 八木君、凄すぎだわ・・・。 速読ってやつか・・・。」

 ・・・たしかに、僕は本を読むのが人より早い。


 それから氷室さんと【土星の輪】について話をしていると、あっという間に夕方になってしまった。


「・・・じゃぁ。 そろそろ帰るよ・・・。」

「あ・・・うん。」


 昨日のように、門の所まで氷室さんは僕を見送ってくれた。

 
 「あ、ちょっと待って!鎌司君!」

帰ろうとする僕を、氷室さんが呼び止めた。

足を止め、近付いてくる氷室さんを見る。

「・・明日さ、もし今日と同じ時間空いてるなら、ちょっとお出かけでもしない? 映画とか・・・どう?」

明日も練習は朝だ。

「・・・うん。空いてるけど・・・。」

 そう返事をすると、氷室さんはとても喜んでいた。



 
 翌朝。

部活の練習の為学校へ行くと、吉宗先輩がソワソワしながら門の所で待っていた。

「よ、よう。鎌司。やっと来たか。」

普段にも増して、先輩は早くきている感じだった。

「・・・おはようございます・・・。 とりあえず、姉の電話番号を聞いて来ましたので・・・。

どこか適当なお店決めて、昼過ぎに電話してあげてくれますか?

くれぐれも、昼過ぎでお願いします・・・。

・・・昼までに電話して起こしてしまうと家の中の何かが壊される危険がありますので・・・。」


僕はそう言って姉ちゃんの電話番号を書いて折りたたんだ紙をサイフから取り出した。

「おおおおおお!でかしたでえ!鎌司い!!!」

先輩はその紙を天高く掲げた。



「おい!お前ら何しとんねん!!!」


遠くから声が聞こえてきた。

2人同時にそっちを見ると、副キャプテンで2年の 鳥飛さんが駆け寄ってきていた。

 鳥飛さんはいわゆる【KY】な人で、

もしこの【合コン】に参加してしまうととんでもないショボイ会になりかねない危険を秘めた感じの人だ。

 「や、ヤバイ。」

吉宗先輩は姉ちゃんの電話番号を書いた紙をササっとポケットに仕舞いこんだ。


 「お前ら、早いなぁ〜〜〜。

いっつもこんなに早く来てるんかぁ?」


鳥飛先輩は妙に笑顔で僕らの顔をのぞきこむように聞いてきた。


「ん、あ、あぁ。いつも早いで。うんうん。」

吉宗先輩はあきらかに隠し事をしているような口調だ。

「・・ん?吉宗、お前何かおかしいな・・・。 何かあったんか?」

「い、いやいや、何にもないで!うんうん!なあ!鎌司!」


・・・なぜ僕に振る・・・。

「・・・少し、教えてもらってただけですよ。 吉宗さんにショートバウンド時のグラブの捌き方を・・・。」


「な、なんや、それだけかいなぁ。 チェ。 ひょっとしたら合コンの話でもしてたかと思ったのによ〜。」

 吉宗さんの顔は真っ青だった。

だが、一応鳥飛さんはそれで納得してくれたようで、それ以上は何も言って来なかった。



 部活の練習中、吉宗さんの動きは昨日にも増してガチガチだった。

この日を境に、吉宗さんのアダ名は【ガチ宗】になった。



 

 練習が終わった。

家に帰ると、姉ちゃんはすでに起きていて、見かけた事のある女子が2人くらい家に遊びに来ていた。


 「おう!鎌司おかえり!! とりあえず、鎌司の言う通り2人揃えたで! 夕方まで家で暇潰す事にしたわ!」

 姉ちゃんが僕にそう言うと、姉ちゃんの友達も僕に気付いたようで、

 「え?これ、4組の八木君やん! ええ?八木君って鍋衣と双子やったん???」

「うわぁ!ホンマや!そう言えばめっちゃ似てるやん! うわぁ。はじめましてぇ〜。」

と言って近付いてきた。

・・・やたらと馴れ馴れしい・・・。



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