黒い影(2)

創作の怖い話 File.124



投稿者 でび一星人 様





制服に着替え、門のところに行くと姉が待ってくれていた。

「よう。鎌司。」

姉はそういうとニコっと笑った。

「・・・姉ちゃん・・・。」


姉はよく門のところで待っていて、一緒に帰ったりする。

中学までは相当に荒れて問題児だった姉も、

何かに影響されたのか、高校に入るとそのナリを潜め、自分なりに女子高生らしくしているようだ。

ただ、かなり必死に抑えている感は否めず、たまに三年の先輩に裏に連れて行かれるフリをして、

誰も見ていないところでその先輩を逆にしばいて口封じをしているようではあるが・・・。



 「鎌司、野球よう続いてるなぁ。 しんどないんか?」

「・・・まぁ。 でもこの為に高校に来たようなもんだから・・・。」

「そかそか。三年が引退して、今10人しかおらんらしいなぁ。 秋の大会はどないや?鎌司出れそうか?」

「いや・・・。 僕は対局とかがあるから、 控えで良いって言ってあるよ。」

「何やぁ。 そんなん言わんと、出たらええのにぃ!」

「まぁ・・・。僕は三年になった時に出れれば良い・・・。本当の戦いの前に手の内を見せる必要は無いと思う・・・。」

「ほ・・ほぅ。 相変わらず、小難しい理屈こねよるな・・・。」


 家に帰り、姉は夕飯の支度、僕は将棋の練習の為に那覇村先生の家に向かう。

 那覇村先生とのぶつかり稽古を2回くらい指し、

 夜の9時に帰宅し、夕飯を食べ、風呂に入って寝る。

これが、僕の1日の生活パターンだ。

ほぼ、この流れで1日が進む。


 ほとんど変化の無い毎日。


変わる事の無い毎日。

 翌朝、登校して教室に行くと、知らない顔の女子が僕の席に座っていた。

他のクラスの子が、遊びに来ているのだろう。

話すのも面倒くさいので、僕は教室の後ろでカベにもたれかかって腕を組んでいた。


キーン コーン カーン カチコーン

チャイムが鳴る。

皆が一様に席に着く。

僕も席に座ろうとする。

だが、僕の席に座っている女子は立とうともせず、じっと座ったままだった。

 教師が来て怒られるのを覚悟で、ギリギリまで居る腹だろうか?

だがやはり面倒くさいので、僕は後ろの壁にもたれかかってそのままにしていた。


 ガラガラガラ・・・


教室の扉が開き、担任が入ってくる。

「おはようナリ。」

アニメオタクで35歳の担任教師。

メガネですこし小太りな担任教師がするこの挨拶に、どうしても挨拶を返す気が失せてしまう。


担任は教室を見回し、後ろで立っている僕に気がついた。

「・・ん?八木君、どうしてそこに立っているのだ〜?」


「・・・・」

僕は無言のまま、自分の席に座っている女子をアゴで差した。

「ん〜〜?」

担任は両腕を腰にやり、あきらかにわざとらしいそのポーズで僕の席を覗き込んだ。

「あぁ!そんな所に座っていたナリか!君の席はそこじゃないよ!ささ、とりあえずこっちへ!」

担任がそういうと、僕の席に座っていた女子はゆっくりと担任の下へと歩いて行った。

「ささ、悪かったね!八木君! 君は自分の席へ!」

 僕もカベを背中でトンっと押し、自分の席に行き、腰を降ろした。


 担任は、その女子を黒板の前に立たせると、でっかい文字で黒板に字を書き出した。


【氷室 桂子】

「え〜皆さん!転校生を紹介するナリよ! こちらのお嬢さんは、ひむろ けいこさん!

ワケあってこの学校に転向してくる事になったナリよ。

ささ、氷室さん、自己紹介を!」


・・・転校生・・・か。

そういえば、一週間くらい前に、そんな事を言っていたな・・・。

よく見ると僕の席の隣に新しい机が用意されていた。

転校生はきっと間違って僕の席に座っていたのだろう。

片ひじを机に突き、その手にアゴを乗せ、

僕は自己紹介をする転校生をじっと見ていた。

身長は小柄。

黒ブチメガネ。

黒髪

後ろで一つくくり。

 お世辞にもキレイと言えるような子では無い。

クラスの男子たちも、前は【転校生が来る】という噂で盛り上がっていたようだが、

実際にその転校生を見てガッカリした感じだ。


人間と言うのはまだ見ぬものに期待し、胸を膨らませる愚かな生き物なんだなと思った。



 自己紹介が終わり、転校生が僕の隣に座る。

だが、一言も会話する事無く、目を合わせる事もせずに1日が過ぎ去った。

 氷室さんは、初日という事もあってか、至ってマジメに授業を受けているようだった。




 夕方。

部活が終わり、制服に着替えて部室を出ると、廊下を歩いている氷室さんを見つけた。


こんな時間まで、何をしているのだろうと?と少し思ったが、

あまり興味が無いので気にせずに歩いて行った。

今日も門のところで姉が待っていたので一緒に帰った。



 またたくまに、月日は流れた。

氷室さんが転向してきたという事以外、

何の変哲も無い毎日が・・・。




 期末試験。

二学期もあっという間に終わろうとしている。

この期末試験が終わると冬休みだ。

窓から眺める景色もめっきり冬色に染まっている。


 いつものように、ただ本を読んだ通りに答えを書く。

ひねくって本に書いてない部分は、耳に入った教師の【おしゃべり】をそのまま書く。

何も難しい事は無かった。

テスト期間が終わり、冬休み前に数回ある登校日に顔を出す。

この日、通知表とテストの結果が出る。

周りは皆、ソワソワしているようだ。

・・・正直つまらない。

どうせ、全部僕が1位に決まっているのだから・・・。

今回は教師のひねくれた問題も、全て見通してやった。

おそらく全教科100点だろう。

100より上は無い。

だから回りの生徒がいくらソワソワしていても1位は僕なのだ。


 試験結果の紙が、それぞれに手渡される。

自分の点数と、クラス内での順位が記されている。


100

100

100

100・・・




予想通りだった。

全て100点。

だが、嬉しくもなんともない。

周りで喜んでいる生徒の顔を見ていると少しうらやましくもある。

僕も、心から喜びたい。


 ざわざわ言っている周りを無視するかのように、僕はテスト結果の載ったその紙を折りたたもうとした。

その時に違和感を感じた。

「・・ん・・。」

折りたたもうとしたその紙を見る。

数学 100点 順位1

地理 100点 順位1

国語 100点 順位2

・・・順位2?

ミスだろう・・・。

100点なのに2位とは・・・。

それも、例の国語。

僕とはウマの合わないウチボが受け持つ教科だ。



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