父と息子(2)

創作の怖い話 File.100



投稿者 でび一星人 様





寒さもあり、沙織と娘はそそくさとお風呂に入っていった。


体を拭き、服を着たおれと息子は、居間のテーブルで2人並んでミカンを食べた。


 一生懸命皮を剥いている息子に、おれはさっきの事を聞いてみた。

「・・なぁ、かーくん。 かーくん、もしかして・・・霊が見えるのか?」

こんな事を聞くのは、実はおれ自身、昔あたりまえのように霊が見えていた時期があったからだ。

とある事がきっかけで、今は人並み?くらいしか見えなくなったのだが・・・。


かーくんは、「・・・霊って何?・・・」

と聞いてきた。

「あ、そうだな。 そんな言葉まだしらないか。 霊っていうのはね。 人の目には見えないんだよ。

 でも、たまに見える人がいる。 かーくんは、ひょっとして皆が見えないのに、見える人がいたりしないかい?」


かーくんの目がまんまるになった。

おれの顔をじっと見つめている。

初めてじゃないだろうか?息子の、こんな子供らしい表情を見たのは。



かーくんは何か言いかけてやめた。


おれは確信した。

息子は、絶対に霊が見えている。

「なぁ、かーくん。 さっき風呂場の入り口のところ、誰かいたんじゃないのか?」

息子はピクっとした。

やはり見えている。

「お父さんに、聞かせてくれないか? 実はな、お母さんは信じないけど、お父さんも昔見えてたことがあったんだよ。」


 かーくんの顔を見て、はっとした。

息子の目から、涙がこぼれていた。

「かーくん・・?」

涙声で、息子はようやく話し初めてくれた。

「・・みんなね・・みんなね、みんな、お母さんも、お姉ちゃんも・・・みんなね・・・

見えないって・・だから、僕も見えないフリしてね・・いつも・・。」

「うん・・うん・・。」

ようやく、口を開いてくれた息子の言葉を聞いて、おれは胸が苦しかった。

この小さな体で、息子はただ一人、自分にしか見えない孤独を抱えて生きていたのだ。

おれは頷きながら息子の話をじっと聞いていた。


「・・そっか。 おばあさんが、いたのか。 かーくんは、ちゃんと言ってくれたんだな。 ここは僕の家だよ・・って。」

 なきながら息子は頷いていた。

「ありがとう。かーくん。 かーくんは優しい子だ。」

おれは息子の頭を撫でてやった。


ガラガラガラ


「あぁ〜〜〜バスタオル準備するの忘れた!! お父さん!もってきてえ!!」


「・・はいよぉ・・・。」


・・・KYな嫁め・・・。


「・・かーくん。母さんも、姉ちゃんも、見えた事がないからわからないんだ。

 でも、父さんならわかるからさ。 また、2人で話そう。」

「・・うん。」

「男の約束だぞ。」

おれと息子は指きりをした。

息子の少し笑った顔を見て嬉しかった。


「はやくもってこい〜〜クソオヤジ!!!」
風呂場の2人を忘れていた。


・・・KYな娘め・・・








 数日後、保育園の参観日があり、 仕事も暇なので有給を使い、沙織と一緒に子供を見に行った。

 「よっしゃーー! ホームランやーーー!!」
・・・教室に向かう途中なのに、娘のはしゃぎ声がここまで聞こえて来る・・・。

ガラガラガラ・・・。

教室の扉を開いた。

 先生がこくりと頷き挨拶をし、こちらに歩いて向かってくる。

まだ、他の保護者は誰も来ていないようだ。

少し早く家を出すぎたかな?


「こんにちは。」

若い先生が、笑顔であいさつをする。

「どうも。いつもウルサイのと静かなのがお世話になっています。」

おれも挨拶をした。


「ああ!オトンとオカンやあ!!」

ウルサイのがこちらに気付き、駆け寄ってくる。


ウルサイのは沙織に任せ、おれは静かな息子を探した。


少し探すと、端っこの方に座っている。

息子はちょこんと座り、その隣には・・。やはり薄いが、黒いモヤのようなものが感じられた。

やはり、いるんだな。 息子は話をしている。


おれは息子の方にゆっくりとあるいて行き、まず黒いモヤに頭を下げ、挨拶をした。


「・・・お父さん、こはるちゃんが見えるの?」

どうやら、このモヤは、こはるちゃんという霊らしい。

「ん。お父さんは見えないよ。 ただ、ここに居るなっていうのはぼんやりわかったから。」

「・・そうなんだ。」


息子はそういうと、またなにやらモヤと話し始めた。

見たところ、もう大分接しているのだろう。


 特に何かをされたりはしていないようだ。

【まだ】良い霊なんだろう。


【まだ】というのも、本来成仏しなければならない霊がこの世にいると、

何かがきっかけで悪い霊になる場合があるからだ。

 そうなると、その後仮にその霊が成仏したとしても、地獄の刑を受けなければならない。

つまり、被害に合う人間も、霊自身も良い事は無いのだ。


幸い、息子は見えるだけで無く、話す事までできるらしい。

これは交霊する上で、ものすごく優れた能力だ。

・・・さて、これをどうやって息子に伝えよう・・。

「・・・あのさ、かーくん・・。」

「・・・知ってるよ・・。」

「・・え?」


息子のその言葉に驚いた。

息子は続けて、

「こはるちゃんがね・・。お父さんの思った事を、勝手に聞いたんだって。 こはるちゃん、泣いてるよ。 

もう死んじゃったから、皆が話してくれなくなったんだって、わかったって・・。」

「う・・ん・・。そうか・・。」

どう言葉にしていいか、どう思っていいか、わからなかった。

ただ、成仏して、幸せになってほしい。

そう思った。


 おれは黒いモヤに手を合わせた。


それを見ていた息子も、真似をしてか同じように手を合わせた。

そしてじっと目を閉じ、

「・・・かーくん。 こはるちゃんに、『幸せになってね』って、言ってあげよう。」

「・・うん。・・」


三分くらい経っただろうか。

「・・・おとうさん・・。こはるちゃん、居なくなったみたい・・・。」


息子の言葉を聞き、おれは目を開けた。


 目の前にあったモヤは綺麗に消え、窓から午後の日差しが差し込んでいた。


「・・かーくん。今まで、ずっとこはるちゃんと話をしていたんだね?もう話す事はできないけど、

こはるちゃんはちゃんと天国に行って幸せに過ごすはずだから、かーくんも、寂しいけど、新しい友達見つけないとな。」

そう言っておれは息子の肩をポンっと叩いた。

息子は、

「・・・平気だよ・・。 僕には、お姉ちゃんが居るもん。」

息子はそう言って、娘の方に走っていった。


「なっちゃん、タケシ君、僕も入れて・・。」

ふとった男の子が、「えぇ〜なんでかーくんと遊ばないといけな・・。」と言いかけた時、


「かーくんに何言うねん!!」

娘はガキ大将系らしい・・・。


沙織と並んで、数分間、子供たちが遊ぶのを見ていた。

「お父さん、不思議ねぇ。」

沙織が聞いてきた。

「ん?」

「ほら、さっきまでぎこちなかったかーくんとあの太った子、今はほら、あんなに笑顔で楽しそうに遊んでる。」

本当にそうだ。 もうさっきのヤリトリがウソのように仲良く遊んでいた。

「・・・本当だなぁ。子供は素直で良い。うんうん。」


そんな感じで沙織と肩をくっつけ、子供たちを見ていると

「・・・あのぉ・・・。」

先生が声をかけて来た。

「あ。はい?何でしょう?」

沙織が聞く。

「・・あの・・今日は、一体どういったご用件でしょう・・。」

「・・え・・?だって、今日は参観日でしょ?」

「あ・・いえ・・・。申し上げにくいんですが・・・。 参観日は昨日終わったんですが・・・。」


窓から差し込む光は、昼下がりの眩い光なのに、

おれと沙織の顔はまるで夕日に照らされているように真っ赤だった。




 後日、園長先生に聞いてみたら、やはり昔この保育園に【こはるちゃん】と言う女の子が居たらしい。

 こはるちゃんは保育園に来る途中、母親が運転する車が事故に遭い亡くなってしまった。

 保育園が大好きで、楽しそうに友達とお話する姿が印象的だったそうだ。

・・・こはるちゃんは、そんな大好きな保育園に、自分が死んだともしらずに事故現場から登園して来ていたのだろうか・・・。




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