秘密兵器

創作の怖い話 File.1



投稿者 13ri@75 様





亮(たすく)がこの島に来たのは父親の転勤に家族ぐるみで引っ越してきたからだった。

対岸には本州の山並みが見え、島との間の海は幅の広い川にしか見えない。

亮はここから毎日小さなフェリーで対岸の高校へと通う。

都会のマンションに生まれ育った亮には、

古い町並みのこの島が思ったよりも居心地がいいのに気づくのに時間はかからなかった。

温暖で穏やかな気候と親しみやすい島の人々に亮はのびのびとした高校生活を送っていた。

7月の中旬、もうすぐ夏休みと言うときに亮は風邪を引き学校を休んでしまった。

前の高校でも剣道部で活躍していた亮はこちらの高校に移ってからも剣道部に入り、

夏の県大会目指して猛特訓に励んでいたが、無理がたたったのだろうか。

両親が仕事で外出しているので、一人家で寝ている亮は起きているでもなく寝ているでもなくボーッとしていた。

程なくして部屋の外に足音が聞こえる。両親とも仕事に行っている時間なので、

こんな昼間に帰ってくる事などないはずなのに・・・『忘れ物かな?』などと夢うつつに足音を聞いていた。

足音は自分の寝ている部屋に近づいてくるように聞こえるけれども、

狭い家なので数歩もあれば部屋のドアの前にたどり着くはずなのに、

足音はいつまでも近づいてくるように聞こえていた。

亮は不思議に思うことなくそのまま眠りに入ってしまい、足音がその後どうなったかは分からない。

夕食時には両親も帰ってきていて、

3人で食卓を囲みお互いに今日一日の出来事を話したが、亮は足音のことなど忘れていた。

もう具合も良くなったと思う亮は念のために今晩は早寝をしたが、

昼間も寝ていたことで深夜に目覚めてしまった。

布団から出るのも億劫な亮は、

目覚めたまま暖かい布団の中にいると昼間に聞こえた足音がまた聞こえて来た。

階下の両親が来たならば階段を上がる足音から聞こえて来るはずなのに、

最初からドアの前の廊下に居たかのように足音が聞こえている。

亮が耳を澄ますと足音が消えた。

その瞬間、亮の枕元に人の気配を感じた。

『だれ?』

なぜだか身体は動かない。でも枕元の気配は自分と同年代の少年だと分かる。

薄汚れたシャツを着たその少年はブツブツと何かを言っている。

朝になって目覚めた亮は軽い頭痛を覚えた。いつものスッキリした目覚めでは無い。

『寝過ぎたかな』と思いながら、

今日からまた県大会のために部活をがんばろうと決意して階下に降りたが、

頭痛がひどくなっていることに気づいた。

母親に言って今日も学校を休むことにした亮は、軽い朝食を取ると再び自分の部屋で寝てしまった。

数時間ほど寝てしまったことに気づいた亮は、布団の中で昨日の足音や枕元の少年の事を考えていた。

夢なのか本当だったのかどちらとも思えない不思議な体験と思っていると、再び枕元に少年の気配を感じる。

少年はやはりブツブツと言っている。

何を言っているのかと意識を集中すると『完成させなければ・・・この装置を完成させなければ』と言っている。

言葉の意味が分からぬままに目を開けると、自分の顔を上からのぞき込んでいる少年の顔があった。

驚きで息が止まりそうになった亮が見たのは目が窪んだ土色の顔だった。

声も出ない亮に手を伸ばす少年は、まるで自分に付いてきて欲しいような仕草をしながら後ろを向いた。

有無を言わせぬ雰囲気に呑まれて後をついて行く亮を、少年は時々振り向きながら先へ進んでいく。

気づくと結露に濡れた土がむき出しのトンネルで、先の方にトンネルの出口と思える光が見える。

行き着いたところはやや大きめの洞窟で向こう側に海が見え、

入り江のようになって洞窟内に海が入り込んでいる。

足下はコンクリートになっていて時たま来る波によって海水が床を濡らしている。

少年が手招きする方へ行くと、大きな黒色の筒が架台の上に寝かせてあった。

『僕はこの装置を完成させなければならないんだ。僕の使命はこの装置のコントロールを完成させることなんだ』

『でも、僕は怪我をしてこの装置を完成させられなくなってしまったんだ』と少年は悲しそうな顔をして言う。

え?怪我?

と、亮が思ったとき。

少年の顔が崩れて頭蓋骨むき出しとなり、窪んだ目は真っ暗な穴となった。

頭部に限らず身体全体が土に汚れた骸骨となった。

そして少年の骸骨はバラバラになり、音を立てて骨は床に崩れ落ちた。

想像を絶する出来事に気を失った亮は、母親の「ご飯だよ」って声に起こされた。

何も変わらない部屋の風景に、さっきのは何だったんだろう。怖さよりも不思議さが残った亮だった。

その後、亮は島の老人から次のような事を聞いた。

この島には戦争末期に海軍の秘密兵器の基地が作られた。

その兵器は当たれば一発で空母も吹っ飛ぶ必殺兵器だったという。

それを操縦するのに少年兵が集められて訓練を始めたが、

見つからないようにと作った洞窟の基地が敵機に空襲されて、崩れた洞窟に基地は埋まってしまた。

秘密兵器も少年兵もみんな崩れた洞窟の下に今も埋まっているとのこと。

「少年兵もきっと無念だったろうね」と老人は最後に言った。

その秘密基地の洞窟は亮の家の近くの断崖に掘られていたそうだ。

秘密兵器の名は「回天」という。



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