背中を押したのは |
人のほうが幽霊よりも怖い話 File.9 |
ネットより転載 |
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ドン。 ガキの頃、階段から転げ落ちた。 当時住んでいた家は古い木造住宅で、階段は急、さらに下りきった正面には柱が立っており、 その柱に頭から突っ込むハメになった。 音を聞きつけ、当時同居していた祖母が部屋から出て来る。 俺を発見するなり叫び声を上げ、両親を呼ぶ。 父と、幼い妹を抱えて 母もやってきた。 みるみる広がっていく床の血溜りで状況を察した父は、俺を抱き上げ必死に俺の名を呼んでいる。 母がどこかへ駆けだした。 今思えば、救急車を呼ぶため電話をかけに行ったのだろう。 俺の頭を押さえる父の手の指の間からは、暗い色の塊が床へ滴っていた。 その光景は今でもはっきり覚えている。 おろおろするばかりの祖母。 厳しかった父が俺の名前を呼んでいる。 声が少し震えているような。 泣いているんだろうか。 よく聞き取れない。 母はいない。 まだ電話をしているのかもしれない。 不思議そうな顔で「俺」の方を見つめている妹。 ふと気づく。 何かおかしい。 家の中はこんな灰色がかった色だったろうか? なぜ目の前で叫んでいる父の声がこんなに遠いんだ? 家族は皆 俺 を取り囲んで騒いでいるのに、妹はなぜ「俺」を見つめているんだろう? あぁどうして「俺」は「こんなところ」から家族を眺めているんだろう? 俺 は階段の下で血を流して倒れているというのに! その瞬間、恐怖が襲ってきた。 死ぬ。 自分は死ぬ。 当時、霊だの魂だのといった概念は当然理解していない。 超常的なものに対する知識と言えば、せいぜい「オバケ」くらいのものだ。 だから直感的に悟ったんだ。 「俺」はさっきよりも高い場所にいる。 このまま昇ったら死んでしまうんだと。 さっきよりも視界から色が失われてきている気がする。 寒い。 なんとか家族の元へ戻ろうとした。 焦燥にかられながらもがく。 宙を泳ぐように身体を動かしているつもりだが、一向に近づくことができない。 そもそも身体が動いている感覚がない。 身体が「ある」感覚がない。 すると、ぼーっと「俺」を見つめていた妹が唐突に口を開いた。 「おにた!」 (おにた = おにいちゃん) 視界が暗転し、落下するような感覚があった後、意識がなくなった。 次に覚えているのは、病院のベッドの上で、見舞いに来た友達と話しているシーンだった。 頭に包帯を巻いた俺と見舞いのみんなで撮った写真は、今でも実家においてある。 その後順調に回復し、今も何事もなく生きているわけだが、 あの時妹が呼んでくれなかったら、きっと俺は死んでたんだろう。 見える妹マジGJ。 助かったぜ。 今度帰ったら飯でもおごってやるか。 そして今でも分からない事がひとつ。 あの時、階段の上に独りでいた俺の背中を押したのは誰だったんだろう? ★→この怖い話を評価する |
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