母からの電話

摩訶不思議な怖い話 File.168



 投稿者 優雨 様




これは、怖いと言うより不思議な話です。

去年の事でしょうか。夜の8時を過ぎたくらいだと思います。

中学生の私は、家で母の帰りを待っていました。

母は看護師で、何の連絡もなく此処まで遅くなる事は滅多にないのですが、

その日は違いました。

(遅いなぁ…もしかしたら何かあったのかな…)

そんな不安が、私の心を埋め尽くしていました。

母子家庭なので、私は母が大好きです。

だからでしょう。その気持ちがより不安を高めていきました。

すると突然家の電話が鳴りました。

人見知りの激しい私は、家の電話を常に留守電にしていて、

声の主で誰か分かると取る様にしています。

留守電に切り替わったのに、電話の主は何も言いません。

ですが僅かに、ノイズとも違う音が聞こえます。

(うわ、怖…誰なんだ…虫の知らせ的なやつか?おかーさん大丈夫か?)

私はホラーが好きで、このサイトもよく拝見しています。

だからてっきり、悪い事が起こったんだと誤解していました。

でも小さく、はっきりと聞こえたのです。

「ドーナツはお持ち帰りですか?」

若い店員さんの声。返事をしたのは母でした。

私は安心し、遅くなった詫びとしてドーナツを買ってきてくれている事を素直に喜びました。

「おかーさん!おかーさん!」

私はすぐに受話器を取り母を呼びました。

遅かったし、近所迷惑は避けたかったので、あまり大きくはありませんでしたが…

しっかりと聞こえる声で呼びました。

でも母は応答してくれませんし、電話の向こうの声も相変わらず小さいままです。

(もしかしたら、鞄の中で勝手に電話が掛かっちゃったのかな?)

そう考えた私は取り敢えず電話を切り、テレビを見て母を待ちました。

暫くして帰ってきた母に私は得意げに言いました。

「ドーナツ買って来たんでしょ?電話掛かってきてたよ」

「何で分かったの?電話なんか掛けてないよ?」

母の驚いた顔に私は更に得意げになり、鞄の中で勝手にそうなったんだと言いました。

母はまだ不思議そうでしたが、楽天的な性格なので深くは考えていない様です。

二人でドーナツを食べました。いつも通りの一日でした。

でも寝る前、私はちょっと考えてみました。

母の携帯はスマホです。先程までいじっていたとしても、

私に電話が掛かってきたのはお会計の頃でした。

そうなると、きっと画面が暗くなってロック画面になっていたと思います。

それに、スマホが人の指以外に反応しない事も知っています。

もしかしたら、不安で不安でたまらなかった私の想いが、形として現れたのかもしれません。

そして私は今でも、おかーさんが大好きです。



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