誰なんだ? |
摩訶不思議な怖い話 File.145 |
ネットより転載 |
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20代前半で地方から上京して仕事をしていた時、間もなくして、同僚の女性と仲良くなった。 これは、その子との話。 名前は、仮にK子。 明るい子で、実家が大富豪だったが、社会勉強も兼ねて職に就いたらしい。 何度かデートをするうちに親密になり、運命の女性にすら思えた。 まだお互いの親には面識がなかったが、将来の結婚も約束していた。 しかし、そんな幸せな日々も長くは続かず、交際から半年後、K子は白血病で入院することになった。 俺は毎日病院に足を運んだ。 病状はかなり深刻らしく、休憩所でK子の母親が泣いている光景も、何度となく目にしていた。 ある日、いつものように病室に二人でいると、K子が「もうお見舞いにこないで」と言った。 驚いたが、細かく話を聞いてみると、これから先は、 髪も全て抜け落ちるだろうし、ミイラのように痩せ細り醜く変貌する。 そんな姿を俺には見られたくないし、綺麗なまま、ずっと覚えていてほしい。 そんな内容だった。 しばくの言い合いの後に、分かった。と返事をした。 正直、俺もK子のそんな姿を見たくなかったのかも知れない。 何より、愛した人が刻々と死に向かう有り様を、黙って見ているしかない現状に耐えられなかった。 完全なノイローゼだった。 しばらくして、仕事を辞めて、逃げるように引っ越した。 苦痛から解放されるためにK子のことを忘れてしまいたかったが、内心、恋しくて胸が張り裂けそうだった。 それから数ヶ月経った、ある晩の出来事。 俺は何かの気配を感じて、真夜中に、ふと目を覚ました。 誰かがいる。 生きた人間じゃない。 俺は目を閉じたまま、身動きひとつ取れずにいた。 すると、その何者かは、ゴソゴソと布団をまさぐった後に、俺の手を握ってきた。 K子だ。 手を握られた瞬間に思った。 その掌は、氷のように冷たく、枯れ木のように痩せ細っていた。 俺は目をあけて、K子を抱きしめようと思った。 しかしK子と話した最後の会話が脳裏をよぎる。 醜く変貌した自分を見られたくない。 綺麗なまま覚えていてほしい。 それが彼女の最後の意志だった。 俺は、閉じてある目を、さらにぐっと閉じながら彼女を抱きしめた。 そして彼女の手を握ったまま眠った。 K子の霊は定期的に現れた。 深夜、目が覚める時は、つまり彼女が来た時だった。 そしていつも俺の手を握った。 俺も目を閉じたまま、冷たく痩せ細った手を握り返し、時には抱きしめた。 俺が起きている時は決して現れない。 やはり、自分の姿を見られたくないのだろう。 それから数年経っても、まだK子の霊は現れ続けていた。 それ故、俺は恋人も作らず、人間関係も薄く、周りからは暗い奴と遠ざけられる存在になっていた。 ある日、電車でK子と出会った街を通る機会があった。 辛くて逃げ出した街。しかし数年ぶりに見ると妙になつかしくなり、思い切って、電車から降りてみた。 しばらく街を徘徊。 K子とよく訪れた公園の前を通りかかった時、K子の母親が、 大きな犬を連れて、前方から歩いてきていることに気付いた。 K子の死に目にも会わずに逃げ出した男だ。 恨まれているに違いない。そう思った。 俺はうつむき加減に歩いた。 あと少しですれ違う。 そのくらいの距離になって、K子の母親は俺に気付いてしまった。 「あら、久しぶりじゃないの」 「あ、はい…」 ぼそりと返事をした。 そして続ける。 「あの、すみませんでした」 俺のその言葉から、会話の内容は彼女の思い出話になった。 俺とK子の母親は公園のベンチに座って、K子の思い出をしばし語り合った。 どのくらい話していただろう。 K子の母親は俺のことを恨んでいる様子もなく、犬を撫でながら色んな話を聞かせてくれた。 「あの、K子のお墓はどこにあるんですか?今度お墓参りに行かせてください」 俺がそう言うと、K子の母親は怪訝な表情を浮かべた。 「K子、まだ生きてるわよ」 俺は一瞬固まった。 K子は完治して退院。 そして数年前に恋愛結婚し、子供もいるらしい。 その事実を知って以来、俺は眠れなくなり、今では重度の不眠症だ。 あ の 手 は 誰 な ん だ ? ★→この怖い話を評価する |
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