廃村(1)

摩訶不思議な怖い話 File.128



ネットより転載





俺が小学5年の頃の話だ。

東京で生まれ育った一人っ子の俺は、

ほぼ毎年夏休みを利用して1ヶ月程母方の祖父母家へ行っていた。

両親共働きの鍵っ子だったので、祖父母家に行くのはたいてい俺一人だったが、

初孫だった俺を祖父母はいつも笑顔で歓迎してくれた。

山あいにある小さな集落で、集落の北端は切り立った山になってて、

その山のすぐ下を県道が走ってる。

県道沿いに商店が数軒並んでて、その中に祖父母家があった。

山を背にすると猫の額程の平地があり、真ん中に川が流れてて、

川を渡って数分歩くとすぐ山になる。

山に挟まれた県道と川がしばらく坂を上っていくと、

険しい峠になっていて、この集落は峠までの道で最後の集落になってる。

この峠は名前も何だか不気味だったこともあって、

昔ながらの怪談話をよく大人たちに聞かされたものだった。

そんな寒村の小さな集落、全部合わせて50人も住んでないような場所だから、

遊び仲間になる子供も5〜6人ぐらいしか居なかった。

よく遊んでいたのが

子供たちの年長者であるA(中1)

Aの弟のB(小6)

仲間内で唯一俺より年下だった魚屋のC(小4)

川で泳いだりカブトムシを取りに行ったり、東京のコンクリートジャングルで生まれ育った俺にとって、

ファミコンが無くても楽しい田舎での暮らしは新鮮で天国のようだった。

小5の夏休み。

俺は例年通り新幹線とローカル線、さらにバスを乗り継ぎ6〜7時間掛けて祖父母家に行った。

翌日から遊び仲間たちに挨拶回りをして、

早速あちこち走り回って遊びまくった。

集落の大人たちから「行ってはいけない」と言われていた

集落南端の山中にあるお稲荷さんで肝試しもした。

カンカン照りの昼間だけど、鬱蒼とした森の中で、

北向きなせいもあって薄暗くて怖かったな。

それとは別にもう1ヶ所「行ってはいけない」と言われてた場所がある。

場所、と言うか、俺が聞いてたのは漠然としたエリアで、

県道伝いに峠方面に行くと、県道沿いに製材工場と墓地がある。

その墓地から先には絶対に行くな、と。

今でこそ県道は道幅が拡張されたり、トンネルがいくつもできたりしてるらしいが、

当時は集落から数キロ先の峠まで、道幅も狭くて交通量も多かったので危ないからだと説明されていた。

確かに両親と車で行ったとき、車で峠を越えたことがあったけど、崖にへばりつくような道で、

車線内に収まりきらない大型トラックがセンターラインを跨ぎながらビュンビュン走ってたのを覚えている

肝試しの翌日、昨日の肝試しはたいしたこと無かったなと、皆で強がりながら話しているとき、

Bがニヤニヤしながら話はじめた。

B「峠の方に行った墓の先、鎖がしてある道あるじゃん?あの先にすっげぇ不気味な家があるらしいよ!」

A「家?鎖の奥に行ったことあるけどそんなの無かったぞ」

C「えぇ?A君行ったことあるの!?あの鎖の先は絶対行っちゃいけないって…」

A「おう、内緒だぞw」

どうやら本当に行ってはいけない場所というのは、鎖のある道小道だったようだ。

A「あの道の先って、川にぶつかって行き止まりだぞ。」

B「それがな、昔はあの先に橋があったらしいんだよ。でも俺たちが生まれた頃に洪水で流されたんだって。」

B「で、あの道とは別に、

川の手前から斜めに入ってく旧道があるらしいんだよ。そこに古い橋がまだ残ってるって話だぜ。」

B「旧道は藪だらけだし、周りは林だからあの道から橋も見えないけどな。」

A「誰に聞いたんだ…?」

B「□□(別地域)の奴に。いわくつきの家らしいよ。」

A「面白そうだな。」

B「だろ?今から行ってみようぜ!」

AB兄弟はノリノリだったが、年少者で臆病なCは尻込みしていた。

B「Cはビビリだなwお前夜小便行けなくて寝小便が直らないらしいなw」

C「そんなことないよ!」

B「やーいビビリwおい、Cはビビリだから置いてこうぜw」

C「俺も行くよ!」

俺たち4人はわいわい騒ぎながら県道を峠方向に歩いていった。

集落から歩いて10分。

製材所や牛舎を抜けると、山側に大きな墓地がある。

そこからさらに5分程歩くと、Bが言う「鎖の道」が右手にあった。

車に乗ってたらまず気付かないであろう、幅2m程藪が薄くなっているところを覗くと、

5m先に小さな鉄柱が2本あり、ダランとした鎖が道を塞いでいる。

鎖を跨ぎ、轍が消えかけ苔と雑草だらけの砂利道を少し歩くと、

道は徐々に右へとカーブしていく。

鬱蒼とした木々に囲まれて薄暗いカーブを曲がっていくと、

緑のトンネルの先からひときわ明るい光がさしこんでいた。

そこで川にぶつかり、道は途切れた。

今居る道の対岸にも、森の中にポツンと緑のトンネルのような道が見える。

対岸まではせいぜい10〜15mぐらい。川幅ギリギリまで木々が生えてるため左右の見通しは利かない。

足元には橋台の跡と思われるコンクリートの塊があった。

A「やっぱ行き止まりじゃねーか」

B「まぁ待ってよ。ほら、コレ橋の跡でしょ?あっち(対岸)にも道があるし。」

A「ほんとだ」

B「戻ろうぜ。旧道の目印も聞いてあるからさ。」

そこから引き返してカーブを曲がっていくと、カーブの付け根あたりでBが道の脇を指差した。

B「ほらこの石。これが旧道の分岐だ」

人の頭ぐらいの大きさの、平べったい石が2つ並んで落ちていた。

ひとつは中心がすこし窪んでいて、B曰く昔はここに地蔵があったんだとか。

県道方面から見てカーブの入り口を左側、濃い藪が広がってるなかで

確かに藪が薄い一本のラインが見える。

藪の中は緩い土がヌタヌタと不快な感触だが、

このライン上は心なしか踏み固められているように思えた。

藪を掻き分け、笹で手を切りながら進んでいくと、川に出た。

B「ほれ、橋だw」

Bがニヤケながら指差したのは、古びた吊り橋だった。

A「橋ってこれかよw行けるか?これw」

B「ホラ、結構丈夫だし行けるだろw」

まずはBが先陣を切って吊り橋を渡りはじめた。

ギギギギと嫌な音はするけど、見た目よりは丈夫そうだ。

Cは泣きそうな顔をしていた。

いっぺんに吊り橋を渡って橋が落ちたら洒落にならないので、

一人ずつ順番に対岸まで渡ることになった。

一番ノリノリのBが渡り終えると、次にA、

そして俺が渡り終えて最後に残ったCを呼ぶが、

モジモジしてなかなか渡ろうとしない。

B「おいC!何怖がってんだよ!

大丈夫だよ俺らが渡れたんだから一番チビなお前が渡っても橋が落ちることはねーよ!w」

対岸からあーだこーだとけしかけて、5分近く掛かってようやくCも渡ってきた。

涙で顔をグショグショにしたCの頭を、笑いながらBがグシャグシャと撫でていた。

橋までの道と同じような藪が少し薄いだけという、

獣道にも劣る旧道を2〜3分程歩くと、

右手から苔と雑草だらけの砂利道が合流してきた。

流された橋の先にあった車道だろう。

そこから100m程だろうか、クネクネとS字カーブを曲がっていくと、

広場のような場所に出て2軒の家があった。

元々は他にも数軒家があった形跡があり、奥にはすぐ山肌が迫っていた。

家があったと思われる場所は空き地になってる為、

鬱蒼とした森の中でかなり広いスカスカな空間が不気味だった。

2軒の家は平屋建てで、道を挟んで向かい合うように建っている。

どちらも明らかに廃屋で、左手の家には小さな物置があった。

広場の入り口には風化して顔の凹凸がなくなりつつある古い地蔵があったが、何故か赤茶けていた。

AB兄弟はすげーすげーと興奮してたが、俺とCは怖くなってしまい、黙り込んでいた。

Cはキョロキョロしながら怯えている。

どちらの家も玄関の引き戸や窓は木の板を×印の形に打ち付けて封鎖されていた。

B「どっかから入れないかな」

AB兄弟は家の周りをグルグル眺め回していた。

とても帰ろうなんて言える雰囲気ではないが、Cは小声で「もう帰りたい…」と呟いていた。

物置がある家の裏手からBがオーイ!と声をあげた。

皆でBの声のする方に言ってみると、裏手のドアは鍵が閉めてあるだけで、

木の板は打ち付けられていなかった。

B「兄貴、一緒にコイツを引っ張ってくれよ」

Aはニヤリと笑ってBと二人でドアノブを引っ張りはじめた。

C「ダメだよ、壊れちゃうよ!」

B「誰も住んでないんだから、いいだろw」

せーの!と掛け声をかけながらAB兄弟は力いっぱいドアノブを引っ張った。

何度目かのせーの!でバコン!カシャン!という音と共にドアが勢い良く開いた。

AB兄弟は勢い余って二人とも地面にぶっ飛んだ。

Aの左肘に出来た擦り傷が痛々しい。

ドアの向こうはかなり暗かったので、懐中電灯を持ってこなかったことを後悔した。

まずBが、次にAが勝手口から土足のまま入っていく。

B「くせー、なんだこりゃーw」

A「カビくせーなーw」

すっかり怯えきってるCと顔を見合わせたけど、

俺は恐怖より好奇心が勝っていたので、AB兄弟のあとに続いて家に入った。

それを見たCが鼻声で「待ってよ!」と言いながらドタドタと家に入る。

勝手口を入るとそこは台所になっていた。

土間を改築したのか、台所部分は土の床が広がっている。

とにかくかび臭く、歩くたびに土っぽい誇りがぶわっと舞うようだった。

台所には何も無く、奥に入ると畳の部屋があった。

台所と畳部屋の境目あたりの畳は特に損傷が酷く、

黒っぽく変色しグチャグチャに腐っていた。

その上にある鴨居は何かでガリガリ削ったような跡がついていた。

部屋には壁に立てかけられた大きな鏡があり、

鏡と反対の壁には昭和40年代のカレンダーがぶら下がっていて、

当時ですら20年近くも誰も住んでいなかったようだ。

カレンダーの下には幅1m、高さ50cm、奥行き50cmぐらいの

木製の重厚な葛篭のようなものがあり、

蓋の部分には黄色く変色した和紙の封筒のようなものが貼り付けてあった。

C「もう帰ろうよ、怖いよ…」

B「弱虫だなぁCはw」

A「折角ここまで来たんだから、なっ!」

ABは笑いながら葛篭を開けようとしていたが、しっかりと閉じられていてビクともしないようだった。

数分葛篭と格闘したABだったが一向に開く気配が無いので一旦諦め、室内の散策を続行することにした。

葛篭の部屋からは細くて暗い廊下が伸びており、汲み取り式の和式便所と狭苦しい風呂が並んでいて、

特に風呂はグレーがかった黒い液体が固まったようなものがあって汚かった。

そして便所と風呂から廊下を挟んで反対側に、もう一部屋和室があった。

和室には全身を写せる鏡と、その鏡の反対側の壁に小さな木箱が置かれていて、

木箱にはさっきの葛篭と同じく和紙の封筒のようなものが貼り付けてあった。

A「うわ、まただよ。なんなんだ?これ」

B「中身、見てみようぜ」

Bはまず木箱が開くのか試してみたが、開かなかった。

そしてビリッと和紙の封筒を剥がして、中に入っている紙を取り出した。

B「なんて書いてあるんだ?これ」

A「達筆過ぎて読めないな…」

そこにはミミズが這ったような文字が黒々と一行だけ書いてあり、

左下には何かをこすったような赤黒いシミが付いていた。

B「あっちの紙も同じようなもんなのかな?」

AとBがドタドタと先ほどの葛篭の場所へ移動する後ろを、俺とCもついて行った。

A「ちょっと違うけど、似たようなもんだな。」

葛篭の文字も書いてある文字こそ違いそうだが、

一行だけ書かれた文字の左下に赤黒いシミが付いている。

首をかしげながらさらに家を調べる為廊下を歩き、

小箱の部屋を通り過ぎるとすぐ玄関に辿り着いた。

C「わっ!」

B「なんだよ?」

C「あそこに!人が!」


→ 廃村(2)



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