青い目の幽霊(2) |
感動の怖い話 File.16 |
投稿者 Bee 様 |
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戦闘機はあのときのまま、日本軍に回収されることもなく横たわっていました。 砕けた破片があちらこちらに散乱し、焼け残った機体は未知の動物の死骸のようでした。 祖母は人の気配がないか確認してから ――見つかったらどうしよう、と不安だったのです――来る途中でつんだ野の花をそなえ、手を合わせ祈りました。 (……あのときは何もできなくてごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……) ぎゅっと目をつぶり、何度も繰り返しました。 いつまでそうしていたでしょう。ぞくぞくするような寒気を感じ目を開けると、 壊れた機体の中、ちょうど操縦席があったあたりに、人影が蜃気楼のように佇んでいたのです。 激しい爆発のためか全身の皮膚は黒く焼けただれ、左足と右ひじがありえない方向にねじれていました。 ボロボロになった軍服の上の頭は右半分が吹き飛び、灰色をした脳がこぼれ落ちています。 青い左目は虚ろに祖母を映し、そのわきで焼け残った金髪が微風に揺れていました。 祖母は目の前に現れたアメリカ兵の霊の恐ろしい姿に、悲鳴を上げることもできずに震えていました。 とうとう殺されるのだ、自分を見捨てた日本人の少女を許すはずがない、と思いまた心のどこかで、 当然の結果だと受け入れている自分もいました。アメリカ兵は凍り付いている祖母を、残った青い左目で静かに見つめ、 「アア……ア……アィ…………」 何かうめきながら腕を差しのばし、祖母が身をすくませた瞬間、思いがけない言葉が耳を打ちました。 「……アア……アイム・ソーリー……」 祖母は思い間違いをしていたのです。 アメリカ兵は祖母を害そうと姿を現したのではありませんでした。ただこの一言を伝えるためさまよっていたのでした。 英語を知らぬ祖母に《アイム・ソーリー》の意味はわかりません。しかしこめられた思いははっきりと伝わってきました。 《私の最期を看取ってくれてありがとう。つらい思いをさせてすまなかった》 と。 気づけばアメリカ兵は消え、祖母の頬には涙が伝っていました。 アメリカ兵を疑ってしまった悔しさと、心が通じあえたことの嬉しさに流す涙でした。 その後、終戦を迎えた日本は復興への道を歩み出しました。 祖母は祖父と結婚し、忙しくも幸せな毎日を送りました。 それからもふと、あのアメリカ兵の眼差しを思い出すことがあるそうです。空のように恐ろしくも優しい……青い瞳を。 ★→この怖い話を評価する |
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